三島由紀夫の『春の雪』は恋愛小説である。と同時に欲望と精神の .. >(続きを読む)
三島由紀夫の『春の雪』は恋愛小説である。と同時に欲望と精神の総合小説とも言うべき『豊饒の海』の第一部を構成する。『春の雪』は、独立した作品としても十分に読め、ここには三島由紀夫の恋愛観が見事に顕現している。その骨子は、恋愛が自意識の劇であり、鏡であること、そしてその究極には不可能性という可能性への期待があり、それが刹那に超越され、持続しないことにある。『春の雪』はそういった恋愛の本質をよく捉えた小説であると共に、自意識が恋愛という観念に結実した美しくも悲しい、と同時に奇跡的に幸福な小説なのである。
僕は以前より映画化を期待する小説として、この『春の雪』を挙げていたが、理由はこの小説の様々なシーン、その背景がとても映像的であると常々感じていたからである。そして、今回、この映画化作品を劇場で観て、我が意を得たりとでも言おうか、その映像美にはとても魅せられたし、主演の2人もイメージ通りで、この映画が目指す映像世界にとてもフィットしていたと思う。
三島由紀夫の小説世界を美しく映像化し得た、この映画の監督の手腕を僕は褒めたい。幌車での雪見のシーン、旅館での逢瀬のシーン、どれも期待以上の出来であった。それを認めた上で僕は敢えて言いたい。
やはり、『春の雪』は小説を読むべきだと。
映画『春の雪』を一個の作品として認めるが、それが言説として完結してしまうほど、『春の雪』という作品の本質は多様ではなく、そして深い。