とある真夏の日、地方新聞社の編集局フロアが一本の電話を皮切り .. >(続きを読む)
とある真夏の日、地方新聞社の編集局フロアが一本の電話を皮切りに、徐々に、確実に、ざわめき始める。
編集局内の人物の配役は、映画ファンにとっては「堅実」と「豪華」が相まみえるベストなキャスティングで、彼らが織り成すその序盤の緊張感を見るだけでも、総毛立ってくる。
昔、地元のTV放送局でカメラアシスタントのアルバイトをしていたことがある。
放送局と新聞社では、根本的にその性質は大きく異なるのかもしれないが、何か突発的な事件の報が飛び込んできた時の緊張感はやはり独特で、フロア内にピンと糸が張るような感覚をよく覚えている。
それが国内事件史に残る未曾有の航空機事故となれば、その糸の張りつめ方は半端なく、各人が努めて冷静であろうとすることで生じる異様な“静寂”と、そこから始まる“怒濤”の情報錯綜の様が見事に表現されていると思う。
1985年。御巣鷹山の日航機墜落事故を題材に、事故を追う地元新聞社での人間模様を、熱く、真摯に描き出した横山秀夫のベストセラーの原作小説も、この映画を初めて観た少し前に読んでいた。
個人的には、ベストセラー作品の映画化に「成功」した稀有な事例だと思っている。
何よりもこの映画の成功を決定づけた要素は、やはりそのキャスティングだ。
それは、それぞれにキャスティングされた俳優たちが、揃いも揃って素晴らしい演技を見せた事に他ならない。
自らの出自と会社との軋轢の間で板挟みになりながらも、信念を貫き、未曾有の事件に向き合う主人公を演じた堤真一をはじめとし、野心溢れる県警キャップを演じた堺雅人、紅一点の新米記者に尾野真千子(最高!)、辣腕上司役の遠藤憲一、新聞社社長に山崎努、田口トモロヲ、堀部圭亮、滝藤賢一、でんでん、マギー……決して流行のスター俳優を揃えたわけではない本当の意味での“オールスターキャスト”だと思う。
描き出されるストーリーは原作同様に、大事故に直面した人間たちの徹底的にリアルな心理描写を主題にしているので、安直な盛り上がりは許されない。
クライマックス、大スクープを手中にした主人公は、最後の最後まで「チェック、ダブルチェック!」の慎重な信条を貫き、ついにはそれを回避してしまう。
観客として「ええ~」と一寸思うが、見返す程にこれこそが真摯な人間描写だと思える。
安易な娯楽性に走らず、それを貫いた原作者も監督も脚本家も、それぞれが一様に技量が高く、巧い。
いまひとつ世間的な評価が低いことが気になるが、何度観ても、その当時の夏の熱さを伝えてくる紛れもない傑作だと思う。