新しい家族を形成する過程の中で、旧家族が崩壊していくのは必然 .. >(続きを読む)[良:1票]
新しい家族を形成する過程の中で、旧家族が崩壊していくのは必然のこととは言え、そこには様々な感慨があってしかるべしです。旧家族を守ってきた人、新しい家族を守らなければならない人。もちろん、新しく形成された家族でさえもやがては崩壊していきます。愛情や憎悪といったものに関係なく、必然的に繰り返される別れ。この永久的に続くと思われる輪廻転生の流れを、父母が息子を訪ねるという場面に限定することで輪切りにし、家族を構成している一人一人の思いををわかりやすく提示しています。すべての人が家族と言う枠組みになんらかの形で取り込まれている以上、この物語は、観客の置かれている様々な立場によって、それぞれの視点を生み出し、不安、怒り、孤独感や連帯感、さらには死生観や無常観といったものまでを内包するボリュームのある作品になっています。もちろん、主人公はあくまでも旧家族を守ってきた老夫婦であり、家族は彼等との関係の中で描かれ、彼等に対する同情的な眼差しが全編にわたって存在しています。その意味で、「年を重ねないとわからない映画」という思いは、この映画には必ず付きまとうことになるでしょう。小津監督の俯瞰や移動を徹底的に排除した独特のローアングルによる画創りについては、語り尽くされた感がありますが、時折挟み込まれる静物画のような人物のいない静かなカット。いつもこれにやられてしまいます。[良:1票]