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<ネタバレ>体が傷ついて血が出ればすぐ気がつくので治療できる。しかし心が傷ついた場合、気がつかないことが多い。そしてその傷は長い年月を経て、突然本人に異変を与える。これをトラウマと言います。ラースのトラウマは、母親の死や、兄の家出、父の人間嫌いなどが遠因に挙げられる。彼のトラウマが突然発症した原因は、数人のレビューワーさんたちが指摘する通り、兄嫁の妊娠により、出産で死んだ母を思い出したからだと考えます。そういう意味ではラースの妄想は笑い事どころか、目を覆いたくなるほど痛々しい。表面的にはコメディに見えますが、実は心が壊れてしまった1人の男性が再生するまでを描いたヒューマン映画なのです。ラースには同僚の女性や兄嫁のように好きな人がいました。しかし好きな相手がそばに寄ってくると彼は逃げる必要がありました。彼が他人から体を触られると痛みを覚える理由は、肉体がラースに対して警告を発しているからです。「気をつけろ、またお前は、お前を愛するすべての人々から傷つけられるぞ」という警告です。もう二度と傷つきたくないという思いがそうさせたのです。心の傷は必ずこのように肉体に表れます。もはや人に触れることさえできない彼が愛することができる人間はこの世にいなかった─。人形ならば愛しても傷つけられない。抱きしめても痛みを感じない。こうして「ビアンカ」は生まれるべくして生まれたわけです。皮肉なことに兄嫁の深い愛情から逃れるために、ラースはどんどん追い詰められたのでした。ラースの壊れっぷりは凄まじい。そんな彼を周りのみんなが必死になって助けようとする様子は現実では中々見られない。あのボーリングのシーンで突然乱入してきた男たちは、通常だと「お約束ごと」のように、いじめっ子役だ。それがリアルだと言われる。しかし単に現実を知りたいならば新聞で間に合う。映画は現実をなぞるだけのものではない事をこの作品は教えてくれる。「ビアンカ」に生気を吹き込んだのは、まさにラースを愛する周りの人々たちの勇気でした。稀に見る斬新なアイデアを見事に活かした傑作です。[良:1票]