実話であることが必要以上に話題を呼んだが、「老い」をテーマと .. >(続きを読む)[良:3票]
実話であることが必要以上に話題を呼んだが、「老い」をテーマとした作品の中では極めて異質なロードムービー。73歳のアルヴィン・ストレイトがはっきりと自分の余生の短さを自覚した時、彼は人生でやり残した最後の仕事を成し遂げることを決意する。それは10年前、仲違いしたままの兄を、誰の力も借りずに自分自身で訪ねること。バスに乗るのでなく、知人に送り届けてもらうのでなく、時速5マイルのトラクターで行くことは、それが他でもない自分自身に残された力で出来る最後の仕事だったからだ。行く先々で出会う人々に、彼は気持ち良くハローと言うが、それ以上のつながりを求めない。それはまぎれもなく、新しい出会いから始まる交流が、おそらく時間切れに終わるであろうことを老人である彼が悟っているからだ。彼はたった一つの目標のために、ひたすら350マイルの道を行く。自閉症の娘は、不自由ではあるが何とか身の回りの世話が出来、一人で生きて行くことができるだろう。兄に謝罪するわけではなく、ただ「会いに来たよ」と言うために、老人は最後の旅をする。それが人生で最後に残された、たった一つの借りだとしたら、自分の力で返すことでその人生に決着をつけたい。私たちは皆、少しずつ周りに借りを作りながら生きている。借金で首が回らなくなる人もあれば、自分の人生に納得し、貸し借りナシで去って行ける人もあるだろう。その時、自分は何を思い、誰に謝りたいと願うのか。この映画を観ながら、私はガラにもなくそんなことを考えていた。[良:3票]