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<ネタバレ>山岳遭難事故を題材に、その事故で三人のパーティーのうちたった一人死んだ山慣れしているのに今回の登山では最初から疲れ切っていた男(児玉清)の死の真相をめぐるミステリーとなっている。前半は三人が山に入り、遭難して、児玉清演じる男が転落死するまでを回想形式で丁寧に描いている。そしてそれを受けた後半の展開という構成。前半もゾクゾク緊張感があるのだが、再び遭難のあった山へ行く後半、主人公の伊藤久哉と真相に迫る土屋嘉男の二人きりになってからはもう目が離せなくなり、クライマックスの数分間の急展開は鳥肌もので、思わず見入ってしまった。この二人の死によって真相は結局闇に葬られ、すべては山だけが知っているというラストがなんとも切なく、いちばん最後の香川京子の独白がいつまでも耳に残りやりきれない気持ちにさせられる。そんな本作の監督は三人娘シリーズや社長シリーズで東宝プログラムピクチャーの喜劇の印象が強い杉江敏男監督というのが驚き。もともとサスペンス映画の監督を目指していたという杉江監督だが、本作ではその手腕も発揮され、喜劇とはまた違う一面やうまさが感じられる。石井輝男監督が担当した脚本も巧みで面白く、松本清張原作らしさもちゃんと出ていて、「網走番外地」シリーズや世間で言われているようなカルト映画だけではなく、こういうちゃんとした脚本も書けるというところに石井監督の職人としてのうまさを感じる。山岳遭難を題材にしているためか、見る前は「あるサラリーマンの証言」や「寒流」とは少し毛色の違う印象もあったが、結局根本には同じテーマがある映画で、やはりこれもじゅうぶんに面白かった。これで東宝の松本清張「黒い画集」シリーズはすべて見終わったことになるが、どれも人間の身勝手さや欲といった本質的なところを鋭くついた内容で3作とも水準が高い見ごたえのあるシリーズだったと思う。[良:1票]