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<ネタバレ>「世界の中心で、愛をさけぶ」など若者が主役の恋愛映画を手掛けることの多い行定勲監督が一転して結婚10年を迎えた中年夫婦(豊川悦司、薬師丸ひろ子)を描いた作品。行定監督は成瀬巳喜男監督のファンということで、トヨエツ演じる夫のダメ男ぶりはどことなく森雅之あたりが演じていそうな感じはあるし、妻が旅行に出かけると言い出して真っ先に自分の食事の心配をするあたりもなんとなく「めし」を思い出してしまった。ほかにも成瀬作品から影響を受けた部分があるのかもしれない。序盤はコメディタッチで描かれていて、この夫婦の会話も見ていて笑えるのだが、登場人物たちのそんな会話の中にのちの伏線を張っているのもうまいし、最初からよく見ていればこれはたぶんこういうオチなんだろうなと分かるような構成で、妻の死に関する説明も早い段階で成されるのだが、だからこそ切なく、妻に先立たれた夫にがんばれと声をかけたくなってしまう。だから映画としては倦怠期の夫婦の話というよりも、妻に先立たれた男の再生までの話なんだが、それをしっかりドラマとして魅せる脚本、そしてなにより主演のトヨエツと薬師丸ひろ子の演技のおかげですっかり引き込まれ、最後まで見入ってしまい、思わずジーンときてしまった。中でも写真家である夫が庭先で妻の写真を撮るシーンがとくに切なく、そこでのやりとりが一年前の沖縄旅行の時の夫婦の最期のやりとりとまったく同じというのも泣ける。行定監督の映画は何本か見ているが、自分的にはとくにこれという映画はなかったように思うけど、この映画は今まで見た行定監督の映画とは違うものが感じられるものになっているような気がした。劇中で二人が口ずさむ「夢の中へ」の使い方もすごく良かった。さっきも書いたように主演の二人ははまり役なのだが、妻を演じている薬師丸ひろ子はとても可愛らしく、魅力的に撮られていて、アイドル時代の彼女のファンだったという行定監督だが、そんな自分も薬師丸ひろ子の代表作になるような映画を撮ってみたいというのがよく分かり、そしてそれはじゅうぶん果たせていると思う。[良:1票]