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<ネタバレ>山田洋次監督が戦前、戦中、そして現代を舞台に何十年も秘められた恋を描いた映画。見る前はかなり不安な面もあったのだが、実際見てみると安心して最後まで見ていられたし、ところどころ難はあるものの良い映画だった。丘の上に立つ赤い屋根の小さいおうちのモダンさが印象的で、主演のふたり、奥様・時子を演じる松たか子は気品のある演技でとても良いし、タキ役の黒木華もまるで本当にその時代の人のような存在感と抑えた演技も印象的でこのふたりはまさにハマリ役。奥様と板倉(吉岡秀隆)の不倫関係を描くというのは山田監督の映画では異色のような気がするが、決していやらしくならずに描いているところが山田監督らしく、あまり不倫の映画を見ているという気にはならないし、ミステリータッチの展開も山田監督の映画では「霧の旗」以来だと思うが、この要素もうまく機能している。「母べえ」とほぼ同じ時代を舞台にしていながら、映画から受ける印象が違うのも良かった。(出てる役者のせいもあるのかもしれないが。)舞台となった小さいおうちが空襲で焼けるシーンをミニチュア特撮で表現したのも山田監督の映画としてはずいぶん思い切っている気がする。全体としては「東京家族」より本作のほうが好みなのだが、いちばんの不満としては登場人物たちの悲しみを号泣で表現する演出が多いのにはストレートすぎてひいてしまうし、せっかく出来ていた感情移入も途切れてしまうのは残念。(中でも倍賞千恵子演じる晩年のタキがモノローグで感極まって泣き出すところは唖然としてしまった。)原作がどうなっているのか知らないのだが、もっと抑えた演出のほうが効果的だと思うし、山田監督ならそれができるはずだ。あともう少し、「東京家族」の主要キャストが出演しているが、撮影の延期で降板した室井滋も過去パートに出演していて、黒木華演じるタキと一緒のシーンを見ていると、演じているキャラはちがうのだが、描かれている時代背景が同じせいかこの前までやっていた朝ドラ「花子とアン」をつい思い浮かべてしまった。終盤に出演している米倉斉加年(「男はつらいよ」シリーズ常連俳優)が最近亡くなってしまったのは惜しい。