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<ネタバレ>小津安二郎監督の戦後第一作で、長屋を舞台に親とはぐれて拾われてきた少年の面倒をいやいやながらに見ることになった女性・おたね(飯田蝶子)を主人公に、人情味あふれる長屋の人々がイキイキと描かれた小津監督らしい人情喜劇で、戦後第一作にしてかなりの傑作だと思う。子供を無理やり押し付けられ、最初は邪険に扱うもだんだん情が移っていくおたねの心情の変化が丁寧に描かれていて実に良い。おたねの心情の変化が最初に感じられるのはやはり干し柿のシーン、盗み食いしたと疑われて怒られ、疑いが晴れても泣き止まない幸平に対して干し柿を差し出すおたねの優しさがなんともあたたかくてたまらないし、次の日おねしょをした幸平が家出したのを本気で心配しているのも良い。(また最初のように幸平が笠智衆演じる田代に拾われて戻って来るのが笑える。)そのあとの写真館のシーンもこの子とずっと一緒にいたいというおたねの心情が良く出ていて、しかし、誰もいない写真館の部屋を映すことによってこの後の展開を暗示しているのが切なく、忘れられない名シーンだ。その夜に幸平の父親が迎えに来て別れた後のおたねの涙は幸平が実の父と会えて良かったというのと、別れることになったつらさ、両方ある涙だと思うのだけれど、とてもあたたかい涙で、とても感動できた。主演の飯田蝶子の演技も素晴らしく、小津作品で飯田蝶子と子供というとやはり「一人息子」が思い浮かぶが、本作もそれに並ぶ飯田蝶子の代表作といえるだろう。小津監督の喜劇センスや子役に対する演出も相変わらずうまく、幸平を茅ケ崎に連れて行くのをくじで決めるシーンのイカサマや、置き去りにしようとした幸平がおたねにずっとついてきて結局一緒に戻ってきてしまうシーンも笑える。もちろん、笠智衆や河村黎吉といった脇役陣も良い味を出していて、中でも笠智衆の口上シーンは印象的だった。それにおたねとおきく(吉川満子)の何気ない会話シーンも良かった。チョイ役ながら殿山泰司や小沢栄太郎が小津作品に出演しているのは珍しい。冒頭から戦後間もない時期であることを感じさせる映画なんだけど、いちばん最後のシーンであふれかえった戦災孤児たちが登場したのを見てこの時代こういう光景が当たり前のようにあって、まだまだ戦争の傷跡が身近にあったことを考えさせられた。