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<ネタバレ>冒頭からテンポが早く、コメディタッチなのだが、反面、シリアスな社会派作品でもあり、戦後の貧しさや傷跡といったものが痛切に描かれている。医者である三雲先生は本日休診の札をかけて休もうとしているが、そういう貧しい人たちを放ってはおけず診察に応じる。この三雲先生のキャラクターがなんとも飄々としていて魅力があり、演じる柳永二郎といえば「座頭市物語」などで悪役のイメージがあるだけにこのギャップはすごいが、こういう善人役もうまく演じられるのはやはり名優の証拠で、主演で見るのはもちろん初めてだが、本作は彼の代表作といっていいのではないだろうか。出演者クレジットのトップは柳永二郎ではなく鶴田浩二なのだが、指を詰めるのが痛いからと麻酔を打ちに来る若いヤクザ役というのが後年の東映任侠映画での彼を知っているとものすごく笑える。でも、まだ若すぎて貫ろくは足らない。本作で戦争の傷跡をいちばん感じさせるのが三國連太郎演じる気のふれた男で、コミカルに描写されてはいるが、重く、戦争の愚かさについて考えさせられるし、この男の敬礼の下、雁をみんなで見守るラストシーンも、戦後の復興に向けた力強いメッセージのようなものを感じられ、とても印象に残る。しかし、渋谷実監督の演出はコメディとシリアスのバランスもよく、この監督の映画を見るのは初めてだったが、雰囲気としては川島雄三監督の映画に近いものがあり、もっと渋谷監督の映画は見てみたいと思った。それにしてもこの映画、作られた時代の空気というものがよく出ているのも良い。それはこの時代だから出せるものであって、後の時代では決して出せるものではない。そういうのを見るのも昔の日本映画を見る醍醐味である。