<ネタバレ>聾唖者夫婦の十数年間の人生を描いた松山善三監督のデビュー作。 .. >(続きを読む)[良:1票]
<ネタバレ>聾唖者夫婦の十数年間の人生を描いた松山善三監督のデビュー作。こういう映画はつい身構えて見てしまうのだが、松山監督が助監督をつとめていた木下恵介監督からの影響も見られる年代記もので、聾唖者(に限らず障害者)が世の中で生きていくとはどういうことかということがよく描かれていて、最後まで素直な気持ちで見ることができた。産まれてくる子供が聾唖者だったらという不安、妊娠したことを母親(原泉)に笑顔で報告に行った秋子(高峰秀子)が母親から出産を反対される辛さ、産まれてきた子供を聾唖者であるがゆえに事故死させてしまった辛さ、次に産まれてきた子供である一郎(島津雅彦)から聾唖者であるがゆえに避けられてしまう辛さ、耳が聴こえたらという秋子の苦悩、そしていわれのない差別。そういう辛さが見ている側であるこちらにもじゅうぶんに伝わってきて主人公夫婦につい感情移入させられてしまうし、そんな中でも二人で力を合わせて生きていこうというこの夫婦の生き方は本当に美しく、勇気づけられる。「私たちは一人では生きていけません。お互い助け合って普通の人に負けないように生きていきましょう。」という秋子のセリフにも心打たれた。既に書かれている方もおられるが、弟(沼田曜一)にミシンを持っていかれ、失意のうちに自殺を考え、家を飛び出して電車に乗った秋子を道夫(小林桂樹)が追いかけ、車両の窓越しに手話で説得するシーンは本当に名シーンで、道夫が秋子に言われた言葉を今度は秋子に言って説得するのが泣けるし、このセリフにあらためて「人はひとりでは生きていけない」ということを考えさせられた。松山監督の代表作ともされている映画だが、ハンディを持っているからといってけっして特別な人間(←こういう表現は個人的にはきらいだ。)などではなくたとえハンディを持っていてもそれ以外は普通の人間と変わらないのだという松山監督のメッセージのようなものが感じ取ることができて良かった。賛否両論ある秋子が交通事故死するラストだけは安直なお涙頂戴に走った気がしないでもなく、普通にハッピーエンドでも良かったような気がするが、(でも、意図としては分からないではない。)それでも本作は紛れもない名画で、本当に見て良かったと心から思える映画だったと思う。また、昭和36年というまだ今よりも障害者への理解が進んでいないと思われる時代に作られたことも評価したい。[良:1票]