<ネタバレ>ヴェネチアで記者から何故実写で撮らないのかという批判めいた質 .. >(続きを読む)
<ネタバレ>ヴェネチアで記者から何故実写で撮らないのかという批判めいた質問があったようだが、それは全てのアニメ作家に投げかけるべき質問であり、私は押井アニメこそ比較的アニメであることに価値があるアニメだと思う。本作の映画全体で描かれる青空や雲は登場人物の心情などという単純な言葉では表せない静かで陰鬱な精神世界をストーリーと一体になって表現している。私の美的センスを批判されても知ったこっちゃないが、あれは本当に美しいと思う。/監督は根本的には人間ドラマを描くのが苦手なのかもしれない。しかし、人間的になれない人間を描き、せいいっぱいの人間性の表出をすくい取ろうとしているような姿勢には誠実さがある。本作ではあがくように空を這うキルドレたちの姿を冷酷に描きながら優しい視線で見つめている。殺したい、殺されたいと相手に自らの生死を委ねる程の愛は観念的だが、いつも同じ道を通るだけの生に耐えられない者ならそんな愛を望むかもしれない。そういう思考実験的シチュエーションの中、幼くて危うい2人によるラブシーンは痛いくらいの狂おしさがあった。いつも通る同じ道も景色は同じじゃないという主人公だが、彼は愛する人のため新しい道を切り開こうとする。立ちはだかる障害は社会全体で仕組まれたシステムにより倒せないことになっている敵だ。その不条理に無自覚に挑んでいく主人公は残念ながら愚かとしかいえないのが切なくてたまらない。/平和を実感するためのショーとしての戦争という設定自体個人的に変だと思うし、他に不満もあるし、別に押井監督が好きなわけでもないが、本作には好感が持てる。ポニョよりこちらが上だと思う。ただ、空(3D)と地上の描き分けに対する視覚的な違和感はやはりどうしてもぬぐえず、そこはどうにかならないものか?と思った。