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<ネタバレ>もっと、タダのエロい映画かと思っていたが、どうしてどうして、すぐれた作品だった。女と見ればすぐ口説きにかかり、手術中にも鼻歌を歌うような超軽々しい医師、トマシュ。前半ではトマシュの軟派ぶりがいかんなく発揮される(笑)。 ところが、「プラハの春」が終わり、ソ連軍が進駐してきて、すべては一変する。安全なスイスにいることもできたのにテレーザを追って再びチェコへ戻ったり、ほかの医師たちが「自己批判書」にサインするなか、トマシュだけが断固として拒否したり。真面目であったはずの者たちが保身を図る一方、このうえなく軽い男と思われてきたトマシュだけが鋼の棒のような筋を通す図式。たしかに人間って、いざとなってみないとわからないもんだと思わされる(自分も含めて)。 そうした「男の生き方」を問う一方、「男と女の不可解さ」も実に丹念に、魅力たっぷり描かれていた。サビーナとの善悪論を越えて惹かれ合う関係、トマシュを理解しようとするあまり自らを傷つける情交を結んでしまうテレーザ……。ステレオタイプではすまない人間心理の機微が見せられ、「そういうもんだよなぁ」と共感した。 個人的にとくに印象に残ったのは、サビーナの情人であった大学教授が「妻と別れてきた。一緒になろう」といってきたシーン。サビーナにとって女としてこんな嬉しいことはない。が同時に、結婚すれば一人のものになってしまうし、トマシュとも切れなくてはならない。そのしがらみに耐えられない思いもどっと去来する。そうしたアンビバレントな感情と涙が、とてもうまく演じられていた。 映像も美しく、俳優たちの目だけの演技などもたっぷり堪能できる秀作。ということで、9点也を捧げます。ラストはまさに「天に召された」といった感じでしたね~。