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<ネタバレ>途中からSFネタになる作品は苦手だが、これは相性がよかった。他人の命と引き換えに大金を得るという究極の選択は、さまざまなことを考えさせられる。たとえば、私たちは普段からニュースで災害地、異国の戦場など、対岸の火事として人の不幸を右から左へと聞いている。キリスト教でよくいわれる「無関心の罪」だ。この感覚が「運命のボタン」の存在と結びつくとき、人はどう行動するかということ。おそらく「想像することのプロ」である赤毛のアンなら、決してボタンを押せはしないだろう。ところが、職場の事情でヒロインは手当を打ち切られ、経済的な苦境に立たされた直後に甘い誘惑を持ちかけられる。この時点で、「パーフェクト・ストーム」のイメージが来た。長期間の不漁続きの果てにやっと大漁を得、嵐を突っ切って港に帰ろうとする漁師たちの判断ミスが、ヒロインのそれとダブって見える。彼女のボタンの押し方は、まるで猫の手のようだった。初めから押したくてたまらなかったからだ。ところが、大金を手にしたとたん、今まで全く見えていなかった不穏な気配がまざまざと広がり始める。その矛盾した感覚の生々しさがダイレクトに伝わってきて、不謹慎ながらこの映画はけっこう面白かった。こまごまとしたSFの設定は、つまり私にはどうでもいい。これは近未来版の「ファウスト」だ。人間がいかに誘惑に弱いか、非合法で楽に幸を手にしたとたん、とてつもない不安がしのびよってくる。最後には、その価値を味わう余裕すらなくなり破滅する。これが決してこの映画だけの事情にとどまらないのは、人を殺害する可能性のある危険ドラッグを、一時の快楽と引き換えに楽しむ輩が現代に多いことからも明らかだ。心のすきを突かれても誘惑を払いのけ、退屈で平穏な日常を選ぶ勇気のある人がどれだけいることか・・・・・・ということではないのだろうか。[良:1票]