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<ネタバレ>入念に作りこまれた映画だと思う。構成は徹底的に考え抜かれていて、情報量も多い。夫婦の生活と有名事件の裁判を交互に語る形式で、微視的・巨視的に90年代を切り取ってみせたのはちょっとあざとくも思えるけれども、確かに成功している。年代もきちんと提示されるが、女性のファッションを見るだけで時代がわかる描写の細やかさはさすが。風呂場で椅子から落ちてごつんと音がするところとか、リアリティうんぬんというかもう、生々しくて肌に伝わってくるようだ。
女は子どもを失った罪悪感から会社を辞め、男はなにごとにも辛抱強く、自分を納得させるための涙は絶対に流さない。英題を見ると「ぐるり」は二人を取り巻く周囲の状況を指しているようだが、逃げそうで逃げない、遠回りしているようで実は真摯に現実と向き合っている二人の生き方もまた「ぐるり」なのではないか、と感じる。というか安易な答えに飛びつかずに(あのうさんくさいベストセラー作家に抱きつく変人みたいに)、生きることに真摯でいようとするとするなら、回り道せざるをえないのかもしれない。
ただ、これほど見応えのある作品も珍しいが、正直いって内容を消化し切れなかった部分もある。割と爽やかに終われそうだったのに「継母ぁ!」を入れてきたのにはびっくりした。それに巧妙な構成が仇となって、ときどきものすごく冷静になったり、展開そっちのけで考え込んだりしてしまい、肝心な夫婦のドラマを遠巻きに眺めていた感がある。なのですごい作品とは思うけれど、感動の度合いを正直に書くと7.5点くらい。繰り返し観れば、いろんなことが腑に落ちるのだろうか。