<ネタバレ>「数奇な人生」とは逆説的な題名のつけ方で、実際にはとてもあり .. >(続きを読む)[良:2票]
<ネタバレ>「数奇な人生」とは逆説的な題名のつけ方で、実際にはとてもありふれた人生の悲喜を描いているように思う。より正確にいえば、特殊な人生だからこそ普遍的な人生の意味合いが象徴的に浮き上がって見える、といったところだろうか。
体が幼くなるとともに認知症が進行し、人の世話を受けなければ生きられなくなるのは、なにも赤ん坊の姿にならなくともありふれたことだ。老いるに従って身も心も子どもに近づいていくベンジャミンが「なにも思い出せない」と嘆くのを、デイジーは「それでいいのよ」と抱きしめる。人は死ぬと生まれた場所に帰っていく――と言葉にしてしまうと陳腐だけれども、“老い”というものを描くのにこんな手法があったのかと非常に感心させられた。
デイジーが事故に遭う直前の状況の推移を丁寧に追っていたのも良い。「あそこでああしていれば今頃は」という誰でも抱いたことがある後悔の念を、丹念に、繊細に拾い上げていく。ささいなことの積み重ねで人生は決定的に変わる。ときには知らないうちに選択がされていて、あとから取り返そうとしてもどうにもならない、大きな流れがある。もっとも映画全体を通して感じられるのは一瞬一瞬をいとおしむ穏やかな慈愛の気持ちであって、けっして負のトーンが強すぎるということはない。
ラストに登場人物をさらりと振り返って、なにか教訓めいたことをいうのかと思いきやそのままエンドロールに突入する、あの控えめさがまたいい。終始美しい映像だが、わざとらしい作り込みもなく、押し付けがましいドラマもない。いわゆる“泣ける映画”ではない分、切なさがいつまでも後を引く。[良:2票]