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<ネタバレ>評判どおりの怪(快)作でした。60年代初頭という舞台設定が効いていて、序盤は、挿入されるタップダンスやミュージカルの音楽などウェルメイドな往年のハリウッド娯楽映画風なのに、徐々に、冷戦・人種・家族をめぐる社会問題が絡んできて、でも最後はしっかり「愛」の物語として昇華されてました。印象的だったのは、悪役ストリックランドの家庭は、まさに50年代のファミリードラマが描いてきた「理想の家族」そのものであり、彼に対峙して「怪物」を守ろうとする主人公たちは、障害、人種、同性愛、イデオロギーといった点で、その「理想」の家族像から最も遠いところにいる人たちだったこと。でも、その遠い世界にいる人たちこそが、もっとも「人間らしく」生きているという逆説を描ききった、美しいラストシーンでした。そこにスパイスとして絡んでくるエロやグロも、人が生きるということにつきまとうものに目を背けず、それと共に生きるからこその美しさを描くんだという監督の信念を感じました。あと、主人公が突然歌い出すミュージカルのシーンは、伝統的なハリウッド映画の手法を使って「古きよき」映画を支えてきた固定観念みたいなものをひっくり返す名シーンだったと思います。だって、歌い出すのは言葉が話せない質素な掃除婦の女性で、そのお相手は卵を食べるのに夢中な半魚人ですよ。でも、そのシーンの美しさたるや。1年前にオスカーを賑わした美男・美女のミュージカル映画との対比も面白いです。ギレルモ・デル・トロ監督はハリウッドでは異色の職人監督というイメージでしたが、その彼がいつのまにかハリウッドのど真ん中で、もっとも現代のハリウッドらしい映画を撮っているということにも、ちょっと胸が熱くなります。それにしても、キュアロン、イリャニトゥに続いて、今のハリウッドはメキシコ出身監督なしには成立しない場所になりましたね。いろんな意味で現代を象徴する一作品だと思います。[良:3票]