10数年ぶりの鑑賞でしたが、ヒーローを現実世界に引きずり出そ .. >(続きを読む)
10数年ぶりの鑑賞でしたが、ヒーローを現実世界に引きずり出そうとする最近のアメコミ映画にすっかり慣れてしまっていたので、コミックの世界の完全再現にこだわった本作にはかえって新鮮さを感じさせられました。この映画がすごいのは、わざわざ説明をしなくてもすべてが自然に成り立っているということ。ジョーカーが毒入り化粧品や毒ガス散布でゴッサム市民を虐殺しようとするトンデモない話なのですが、その動機や目的は一切語られません。悪人であるジョーカーと舞台となるゴッサムシティが完璧に作り込まれているので、もはや悪事の理由を説明する必要すらないのです。背景や理由をくどくどと説明するブライアン・シンガーやクリストファー・ノーランの映画とはまるで違い、画だけで観客を納得させる構造になっている点には感心しました。。。
だからといってこの脚本が頭空っぽというわけではなく、目に見えない設定部分は徹底的に理詰めで考えられています。例えばバットマンの設定。仮面をかぶって犯罪者をこらしめて回る大富豪などマトモな人間であるはずがないので、常人を装いつつも激しい凶暴性を内包した狂人という設定としています。この映画のブルース・ウェインはノーラン版と違って社会正義を一言も口にせず、己の暴力衝動を充たすために犯罪者をターゲットにしていることが明確化されています。恋人ヴィッキーに正体を明かす場面は象徴的で、彼はバットマンであることを誇ることはなく、「やめようにもやめられないんだ」とあたかも悪い中毒のようにヒーローとしての自分を語ります。バットマンの働きに感謝したり、その活躍を応援したりするゴッサム市民が一人も登場しないのも意図的な演出でしょう。。。
以上、本作が図抜けた映画であることは認めるのですが、娯楽作としてはそれほど楽しめないことが難点。バットマン・ヴィッキー・ジョーカーの三角関係が物語の核となるのですが、生粋のオタクで恋愛に不慣れなティム・バートンがこの部分をまったく扱えていません。さらにはアクション演出ももたついており、スリルや迫力をまったく感じさせない見せ場が連続します。もうちょっと引き締まっていれば見違えるような傑作になったかもしれないだけに、本作製作時点のバートンの未熟さを残念に思います。