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<ネタバレ>全10話(+番外編1話)から成るOVAの要約版で、しかもそのシリーズが完結していない段階で製作・公開されたという奇妙な立ち位置にある劇場版。50話に及ぶテレビシリーズなら要約の価値もあるというものですが、全部見ても4時間強で終わってしまうコンパクトなシリーズを要約する必要性がそもそも低い上に、元のシリーズ自体が完結していないために明確なオチをつけられない、シリーズ中もっとも盛り上がったグフ・カスタムとの戦闘は未収録と、残念な要素しか見つかりません。さらに問題なのは、本劇場版オリジナルキャラであり、タイトルロールでもあるアリス・ミラー少佐に魅力がないことで、仮に彼女がしっかりとしていれば劇場版にも幾ばくかの価値が出ただけに、この部分の手落ちは致命的でした。
元のOVAシリーズは良作です。兵器としてのMSという面を極限まで追求し、第二次世界大戦やベトナム戦争を連想させる戦場に、その兵器のひとつとしてMSを介在させるというコンセプトが優れていたし、作戦行動は細かく考えられていて隙がありません。泥で汚れ、過去の戦闘で受けたダメージが残された状態で登場する量産型MSには、シャアやアムロが乗るピカピカの最新鋭機とは違うかっこよさがあったし、ジオン軍のMSの損傷が特に酷いことから全体の戦況を伝えるという演出も気が利いていました。
他方、主人公・シロー・アマダの個性については、概ね低評価となっています。ジオン軍のコロニー落としで家族と故郷を失ったという背景を持ちながら、本編中ではジオンに対する憎悪を見せることがなく、さらにはジオンの名門・サハリン家出身であるアイナとの恋愛にも迷いがありません。その設定と劇中での行動が整合していないため、感情移入が難しい人物となっているのです。
また、表面上は部下思いの隊長のようでいて、その実、軍法会議ものの独断作戦に部下を巻き込んだり、小隊を捨ててアイナの元に走ったりと直情的な面があり、隊長として大局を見る目が備わっていません。さらには、本人の戦闘スキルが高いことから無茶な行動が多く、付き合わされる部下にとっては厄介なタイプの上司だと言えます。部下に対して「とにかく生きろ」と繰り返すものの、敵を倒すことこそが隊長としての責任であり、部下を生きて帰すためにも有効な手段であるという認識が欠けており、そもそも軍人としての適性に問題があったように思います。