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<ネタバレ>当初はテレビシリーズ用として考えられていた作品だけに、各要素はしっかりと作りこまれています。まず、クロスボーン・バンガードのMSデザインが秀逸。連邦系ともジオン系とも違う個性があり、新たな脅威が現れたという設定をデザインでうまく表現できています。また、クロスボーン・バンガードの創始者マイッツァー・ロナは人格者であり、その主張には一定の哲学と合理性が認められるものの、腹に一物持った部下たちが勝手に動き出したことから結果的にならず者集団になってしまったという展開には、現実の組織論が反映されているようで面白いと感じました。
戦場の描写は壮絶を極め、乳飲み子を抱えた母親がMSの薬莢に頭を割られて死ぬ、主人公グループのムードメーカーらしき人物が初戦で衝突死、大量殺戮兵器バグは子供を切り裂くなど、普通のアニメでは被害者にはならないタイプの人たちの死が克明に描かれており、戦争とは地獄であることを強烈に印象付けています。
作品の落としどころもよく考えられています。主人公は鉄仮面を倒すがそれはあくまで私闘のようなものであり、主戦場では連邦軍がボロ負けしてフロンティアⅠを放棄したという、勝利と敗北の両方が含まれた結末としたことで、一本の映画としてオチを付けると同時に、これから続く(と想定されていた)テレビシリーズにも繋げており、これは本当にうまいやり方だと感心しました。
問題点は、テレビの1クールに相当する分量を2時間に押し込めてしまったために、急な展開が多いこと。舞台が突然変わったり、何人かのキャラクターが唐突な心変わりをしたりと、ついて行けない点が多々ありました。また、テレビシリーズ用の作品だけあってセリフのあるキャラクターが非常に多く、キャラクターの把握にも時間がかかりました。そのキャラクター達は基本的に常識人なのでストレスなく見ることができたのですが、反面、強烈な個性を持った者がいないためにドラマ部分への関心が持続しなかったこともマイナス。登場人物の大半が狂っていた『Ζ』って、なんだかんだで面白かったなぁと遠い目をしてしまいました。
破綻気味のスケジュールで製作されたためか、MS戦の作画クォリティは『逆襲のシャア』どころか、数ヵ月後にリリースされたOVA『0083』にも完敗というレベルで、本家スタッフが再結集した作品としては期待はずれです。[良:1票]