<ネタバレ>重い空気に包まれたヒューマンドラマ(ラブストーリー)。無戸籍 .. >(続きを読む)
<ネタバレ>重い空気に包まれたヒューマンドラマ(ラブストーリー)。無戸籍であることは社会においては存在しないに等しくなってしまいかねない。限られた条件で生きる中で、本当の幸せに辿り着くことは出来ないのか?
いろいろと考えさせられる作品でした。少なくとも出生の時点では母親に最大の原因と言うか責任があったでしょう。きちんと法に則って、DV夫と対峙する強い決意を持ってあらゆる社会資源を活用して対応すれば、市子に無用な重荷を背負わせなくても済んだかもしれない。勿論、それは殆ど机上の空論で実際には難しいでしょうけれど。
子どもだった市子には主体的に困難を乗り越えることは無理だったことは間違いないでしょう。大人たちの中で流れに身を任せて生きざるを得なかった。悲し過ぎます。殆ど意味も解らず月子としても生きること。それは成長するにつれ想像を絶する苦悩を呼び起こしたに違いありません。そして、自我も確立し周囲の流れに逆らえる力が付き始めた時、月子の命を奪うという歪んだ決断をしてしまう。しかも母親はそこに迎合してしまう。ここでも母親の自分ありきの論理が市子の進むべき道を閉ざしてしまった。
家庭が無いに等しい市子は恋人に拠り所を求めようともするけれど自ら崩れて行ってしまう。更には、状況は全く異なってはいるものの再び人の命に手をかけてしまう。そして、幾度もの挫折や失望の末にやっと辿り着いた長谷川という安住の地。その3年間は、いつ失ってしまうか分からないという不安を伴いつつも人生最上の日々だったことでしょう。しかし、幸福の絶頂は即ち最悪の失望となってしまう。
もはやここまでという決意だったのか、ネット上で見つけた自殺願望の女性を呼び寄せた市子。果たして自らの死を選んだのか?それともリセットの手段として利用したのか?長谷川の愛は及ばなかったことは確か。
ひとりの人間のアイデンティティとは何?社会のルールのおける存在意義と、本質的・普遍的な意味での存在意義。それらを対比しつつ人の生き方を問うようなテーマ性を感じた佳作でした。
ただ、本作の基本テーマのスタート地点と言える市子の幼少期から高校時代までの設定が少々雑なのは何とかならなかったものか?決してダークファンタジーでもエンタメ色の強いスリラーでもない作品と思えますので、市子が月子になりすまして就学するというトンデモ設定はいただけなかった。月子が公的支援を受けているのが決定的。100%なりすまし不可能です。ここは現実的な設定を工夫して欲しかったところです。
それと、ラストにオープニングのカットを繰り返したことはどうでしょう?冒頭見ていて何故市子がびしょ濡れなのか判りませんでした。でも、クルマが岸壁から落ちて2人死亡というニュースで観客は判るはず。物語の余韻を残すためのリピートなのか?でも少々説明的になり過ぎているように思え残念でした。
そんな不満は抱きつつも、硬派で重厚な人間ドラマとして見ごたえのある1本ではありました。