スプラッタB級ホラーの香りをプンプンさせつつ、マザーコンプレ .. >(続きを読む)
スプラッタB級ホラーの香りをプンプンさせつつ、マザーコンプレックスを象徴する両腕の喪失と、父から与えられた胸の刻印による呪縛からの解放がストーリーの主軸となる。両腕の喪失と書いたが腕が無いわけじゃない。親父に両腕を切られた母親の腕代わりになっているのだ。母の仕草にあわせ息子が後ろから手を動かす姿は滑稽だがある意味怖い。主人公である息子は血を求める母親の代わりに殺人を重ねていく。メチャクチャな話ではあるが、ホドロフスキーは複雑な心理描写を排除してありのままの人間を描いている。奇形の人々や障害者が沢山登場するが、そこに違和感は全くない。欠けている部分が見えやすいかそうでないか、ただそれだけなのだ。見えやすいというのは明るさでもある。南米を意識したと思われる舞台の熱気と共に、彼らは激しく躍動している。とは言うものの皆さんがおっしゃるとおり、この映画は「エル・トポ」程の衝撃はない。ないのだが、僕はこっちのほうが感動した。スクリーンで見たというのもあるのだろうが、この映画にはとても気に入ってるシーンがあるからだ。胸にフェニックスの刺青を父親に彫られた主人公・フェニックスにひそかな思いを抱く少女が、傷ついた彼の胸に手を当て、鳥の翼のように羽ばたかせるパントマイムのシーンである。ちなみに少女は聾唖であり言葉を交わすことは一度もない。最初と最後に、見事なタイミングでこのシーンを持ってくる。映画が詩になる一瞬をここに見た。素晴らしい映画をありがとう、ホドロフスキー。