海炭という地名からは、滅んでいった炭鉱町のイメージが呼び起こ .. >(続きを読む)
海炭という地名からは、滅んでいった炭鉱町のイメージが呼び起こされ、最初の造船所のエピソードの絶望的な組合運動の姿なぞ歴史を思い出させる。消えるまぎわの炭の最後のほのかな明るみみたいなものを描くのかと思った。きれいなんだ、あれ。でも観ていくと、これ炭の最後の明るみと言うより、ほとんど灰の世界。グレーで一貫している。全員うなだれ、負のカードばかり拾い集めているような侘しさが募る。暗い屋内で市の暗いニュースを報じるテレビ画面ばかりが明るい。たしかに題名で「叙景」と断わっているのだから、芯のような手応えを求めてもお門違いなんだろうが、とことんうなだれたこの世界は、ちょっとキツかった。いっそ叙景に徹し、息を殺して見詰めないではいられない映像で押してくれれば、こっちもそういう姿勢をとったものの、こちらの眼力が弱かったのかも知れないが映像にそれほど引きつける力が感じられず、中途半端に「文学」が残ってしまっている気がした。その「文学」の部分だけでは、「なるほど現在の地方都市はこうなのか」と新鮮な角度からの発見は得られなかった。こちらが勝手に「ルポルタージュ」を求めてしまっていたのかも知れない。最後路面電車を巡って、登場した人たちが出てくるあたりはちょっと浮き浮きしたが、あまり絡み合わず、ここもあくまで「叙景」。プロパンボンベのそばでの煙草が一番ドキドキした。