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<ネタバレ>原作ものでベルイマンは脚色だけなんだけど、登場人物たちが恐れに支配されている、すっかりあの人の世界。自分の生に忠実であろうとすることからくる他者への過酷さ。愛人と外国に行こうと思っていることを妻に淡々と告げる船長も船長なら、妻は妻で、旦那の失明が決定的になって自分の保護下に置かれる時を待っている。せがれは父親の圧倒的な支配を恐れ、また自分の背骨の曲がり具合が他人の目にどう映るかを恐れている。せがれと船長の愛人が舟遊びをするシーンの、水のきらめき、空の雲、風車、清潔だけどなにか希薄な世界の美しさが、唯一ホッとする場面。でクライマックス、せがれが潜水しているとき、父親の船長が潜水服へ空気を送っていたポンプを止めてしまうところが怖い。ポンプを押す手が次第にゆっくりになっていく、あたりを見回すと誰もいない、ドライヤーの「吸血鬼」を思わせるシルエットがついに動きを止める。人が魔になる瞬間を、圧倒的な静けさの中で説得力を持って描ききった。[良:1票]