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<ネタバレ>主人公は、北から亡命してきた元軍人というか、諜報部員で、韓国の安企部に勤めることになる。だが、亡命は偽装で、韓国に革命を起こすため潜入してきたのだ。彼は、韓国で数年を過ごし、監視付きながらもそれなりに楽しみもある生活を送っている。だが、党への忠誠心はゆるがない。
彼自身はエリートだから、北にいるときだって飢えるようなことはなかっただろうけど、祖国の置かれている経済的な苦境がわからなかったわけがない。実際に目にする南の物量と情報の量を見て、彼の気持ちはほんとうにゆるがなかったのだろうか。1984年ころだと、韓国でも今に比べれば豊かさはそれほどでもなかったろうし、まだ夜間外出禁止令があったころで、民主主義とかいっても、政治的な自由なんて画餅にすぎなかった。だが、北と比べると経済的には大きな差がついていたのも間違いない。映画にはそこがまったく描かれていないので、どうもいまひとつ感情移入できないのだ。
人は、実際に目に入っているものが見えているとは限らない。見たくないものはいろんな理由をつけて、意識的にしろ無意識にしろ、見えないようにしてしまうことだってできる。韓国に生まれ育った主人公の恋人でさえ、革命を信じてスパイとして活動していたのだ。
彼女は主人公を失いたくないという気持ちから党を裏切ったけれども、主人公はなにを信じて、なにを信じられなくなったのか。彼はなにを見ていて、なにを見たくなかったのか。そのへんは、映画で描くのはむずかしいとは思うけど。