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<ネタバレ>無断で留守宅に住みつく男が主人公。原題の「空家」は心の空虚を意味する。男は社会との接点を持たない。その象徴として彼は“無言”。彼は留守宅に侵入すると、音楽をかけ、洗濯をし、料理を作り、風呂に入り、寝る。人が居ないと寛げるのだ。壊れものがあれば修理する。これは男に“癒す力”があることの象徴。ある家で、心に空家を持つ女と出逢い、一緒に行動するようになる。男と居ることで女は癒される。始めは言葉を失っていたが、最後は言葉を取り戻す。愛の言葉だ。英題の「3-Iron」はゴルフクラブの3番アイアン。低い弾道で長距離を飛ばせるが、扱いが難しい。この映画の隠れた命題は「暴力」だ。3番アイアンはその象徴。クラブは護身用、凶器にもなる。この世に暴力はなくならない。女が心を喪失したのも夫の暴力による。ボクシングも一種の暴力で、男が修理した子供用ピストルも使い方次第で暴力となる。警察の取り調べでも暴力が横行する。男は護身用としてクラブを持ち、常に技を磨いている。心の防御を固めていたのだ。が、時には凶器としても使われる。男が女の夫と刑事に、夫が男に痛打を加えた。暴力の危険性を知っている女は男にゴルフの練習を辞めさせようと邪魔をする。しかし、男の誤打した球が車のフロントガラスに当って事故が起る。落ち込む男。今度は女が癒す番となり、二人の心は接近した。冒頭の揺れるゴルフネット越しの女神像は、暴行される女を表現する。洗濯物を手洗いするのは、洗濯機の音や動きが暴力的だから。家庭には温かみが必要だ。が、実際には諍いや暴力が絶えない。だから男は留守にしか入り込めない。長椅子のある家は夫婦仲が良い。温かみのある家庭だ。だから、女も自然に入っていけたし、夫婦も受け容れた。あの家は「理想の家」の象徴である。世の中が理想の家になれば男にも住む場所ができる。暴力のある家に入るには、不可視になるしかない。男はその術を身につけ、夫には見えない人物となり、女の家に侵入した。そして二人は結ばれた。お互いが相手の心の家に住みついたので、二人合わせても体重はゼロだ。恋愛の姿を借りて、暴力ある社会を批判した眩い幻想譚。その奇想と整合の取れた脚本、映像の美しさには瞠目する。消極的な解決策に異論もあるが、口にするのは無粋だ。雰囲気を楽しめばよい。男が納棺士の技術を持つ。女がアナログ体重計を操作する。この二点は不要と感じた。[良:1票]