<ネタバレ>1560年、桶狭間の戦に勝利した織田信長は天下布武の第一歩を .. >(続きを読む)
<ネタバレ>1560年、桶狭間の戦に勝利した織田信長は天下布武の第一歩を踏み出した。同じ年、スペイン探検隊の分遣隊副将アギーレがアンデス黄金郷探索の旅に出た。そのアギーレの物語。熱帯の密林を粗放な筏で縫う川下りは危難を極め、出発早々筏の一つが渦に巻かれ滞留してしまう。隊長は救出を命じるが、筏の隊員達は何者かに銃殺される。隊長が死体の回収を命じると筏は大砲で粉砕される。すべてアギーレの仕業だ。隊長が徒歩での撤退を決めると、アギーレは反逆して隊長を撃ち、隊を掌握して筏で黄金郷を目指す。しかし、この野望に満ちた遠征は浅慮無謀であった。筏を阻む大自然、堪えがたい暑さ、見えない先住民からの散発的な攻撃、首狩り族の恐怖、食糧不足、仲間割れ等で徐々に自壊してゆく。修道士は長いものに巻かれろで面従腹背を決め込む。処刑された隊長の愛人は首狩り族の潜む密林に姿を消す。貴族の身分故に皇帝に指名された男は、川が大きく蛇行する度に領土宣言し、既に領土はスペインの六倍に達したと悦に入る。その姿は滑稽で、食糧を独占していた為、何者かに扼殺される。娘は死に、残りの隊員は熱病に斃れる。それでもアギーレは屈しない。「俺は神の怒り。神話のように娘と結婚し、この地上に比類のない純潔の王朝を築く」と嘯く。冒頭、大俯瞰で山脈を越えるスペイン探検隊を捉えた神の視点は、最後、たった一人になった筏上のアギーレを回転して映し出す。終始、鷹揚に身を反らせ、鋭い眼光で周囲を圧する主役の演技は圧巻だ。ここにはスペインによる中南米大陸文明消滅、帝国植民地主義、奴隷制度等に対する批判は無い。ただ熱病にように己の野望に向って突き進む、鋼の意志を持った男を描く。彼に常識は通じない。全てを失っても絶望せず、猶、前進を続ける。彼にとって樹上の船は決して幻ではない。彼を“欲望で身を滅ぼした狂人”と断じるのは容易いが、本作の主題は逆で、むしろ彼のような人間の賛美なのだ。現代文明では必要とされないが、過去において、人知を超えた、神のような強力な意志を持つことの出来た人間が前人未到の大自然を切り拓いてきたのかもしれない。数万年前、アリューシャン海峡を越えて米大陸に到達したモンゴロイドのように。そこでアギーレと信長の姿が重なる。勝てば覇者、敗れれば狂人、紙一重だ。巨大な野望である「神の怒り」は人間を人間足らしめた原動力だったのかもしれない。