<ネタバレ>ヴェルドゥは30年間真面目に銀行に勤めていたが、戦争による不 .. >(続きを読む)
<ネタバレ>ヴェルドゥは30年間真面目に銀行に勤めていたが、戦争による不況のあおりでクビになり、苦悩と混乱の中、妻子を養うためのビジネスとして殺人を選ぶ。偶然出会った娘を毒薬の実験に使おうと食事に誘う。娘は彼と似た境遇だった。戦争で不治の病となった夫の世話をしていたが、お金に窮し、窃盗をして入獄。入獄中に夫は死亡した。愛を信じないというヴェルドゥに娘は言う。「愛は犠牲、母が子に感じるように。愛を信じる、子供のように。夫のことは信仰で生きがいだった。夫のためなら殺人だってしたわ。愛は信実で深いもの」ヴェルドゥは苦笑する。それは彼がかつて信じていた愛だったから。「愛を信じすぎてはいけない。冷たい世間と闘わなくては」と忠告。娘は答える「希望を失いかけていたけど改めて信じたくなった。冷たくて醜い世間だけど親切が美しくするわ」娘に自分の姿を見たヴェルドゥは殺人をやめ、金銭を恵む。数年後に再会。ヴェルドゥは株で破産し、妻子を失っていた。娘は軍需産業の社長の愛人となり、裕福な生活を送っていた。ヴェルドゥは言う。「今の方が幸せ。恐怖と不安から逃れられるから。悪夢の世界から覚めた気分。失意は心の感覚を麻痺させる。人生を捨てたい気分だ」娘は言う。「人生を捨ててはだめ。人生に退屈はないわ。運命に従って生きるのよ」ヴェルドゥはこの運命の言葉に従い自首する。裁判で「みなさんにすぐに会いますよ」と発言するが、これは同じ罪悪の時代を生きているので、死後行き着く先は同じという意味。死刑前に今まで飲んだことがないと言ってラム酒を飲むが、これは好奇心が残っていることで、人生に希望を失っていないこと。ラム酒は希望の象徴。それを飲んだあと、陽が射して明るくなる。愛を信じる心を取り戻した瞬間だ。心憎い演出である。娘とヴェルドゥはコインの表と裏、善と悪、太陽と夜。両者の運命に戦争が大きく関わることで、戦争を支持する社会への強烈な風刺となっている。数百万人単位で人が死ぬ戦争を批判するには、大量殺人をしてみせる必要があった。毒には毒をである。実在した殺人鬼の話を元に、ここまで昇華させるのは天才の所業。たっぷりの毒と笑いと愛を堪能あれ。孤高の人、チャップリンでしか成し得ない不滅の偉業である。