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<ネタバレ>この監督のシナリオには、作品全体を規定するキーワードが台詞として頻出するようだ。「川の底から~」では「中の下」だった。本作では「粋(いき)」がそれにあたる。そう、江戸っ子が「粋だねぇ~」と口にするあの「粋」である。登場人物たちはみな貧乏だったり不幸を背負っていたりで、時代から取り残されたような長屋に住んでいる。そこに、妊娠9ヶ月の主人公・光子が15年ぶりに戻ってきて、彼らの暮らしを「粋かどうか」という価値観で牽引して行くストーリー。光子のお腹の子の父親はカリフォルニアにいる黒人男性らしく、すでに関係が切れている。最も不幸なはずの彼女が他人の不幸に共感し粋に接する。「粋」とは精神的なカッコ良さなんだけど、それは貧富に関わりなくと言うより、貧乏で苦しい時こそ前向きなエネルギーとして「粋」を発揮しようという、解かりやすいメッセージだった。これは「川の底から~」でも感じたことだけど、状況が逼迫していても「とりあえず」と言って問題を棚上げにして、精神論で突破を図る。そこに勢いはあるけど、理屈がありません。それで観る側を説得できるかどうかが肝なんですが、本作はその部分で「川の底から~」に及ばなかった。光子が超然と「粋」を貫けるのは、幼少時に接した長屋の大家さんの影響だと思うが、彼女の成長過程がごっそり抜けているので説得力が乏しいんだと思います。物語の中で成長するような構成の方が良かったという感想です。[良:1票]