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<ネタバレ>私は予告編を観た時のこの映画の印象は次の様なものでした、「かつて行った虐殺行為を嬉々として喋る殺人者を捉えたドキュメント」。実際に前半まではそういう内容が描かれます。序盤に店の屋上で自分が如何にして共産主義者(と断定した人間)を拷問し、殺害したかをアンワルが楽しげにカメラの前で演じてみせる様には大多数の人が嫌悪感しか抱かないでしょう。ここまでは私は「コイツ完全にイカれてるな」と思って観てました。
しかし中盤から段々と雰囲気が変わってくる。一つは自らをプレマン(自由人)と称する彼らが単なる「汚物は消毒だー!」とか言うような馬鹿ではなく、普通に知識を持ち合わせている点。監督が車内で一人のプレマンに「あなた達の行為はジュネーヴ条約に違反してますよね。ハーグから裁判に呼ばれるのが怖くないんですか?」と疑問を投げる。それに対して「アメリカのグアンタナモでの拷問はどうなんだ?俺達の行為を責めるなら"カインとアベル"からやり直せ」と答える。実際にアメリカはローマ規定に批准しておらず国際的な問題となっていますが、監督の質問にこんな返答をする彼は完全に国際法を把握している。単なる無知の暴徒ではない。因みに一応確認してみるとインドネシアも未だ批准していません。
極めつけがラストで、アンワルが自分が行った殺害行為を被害者視点から体験することで、屋上で強烈な嘔吐感に襲われる場面です。彼はイカれた人間ではない。自らが殺した人間の悪夢に苛まれ、自らの行為に対し遂に後悔しているとまで言ってしまう。
逆説的に言うと、そんなある意味普通の感性を持っている人間が1000人を殺害する行為に及んでしまった。その事実に心底戦慄を覚えました。私も含めアンワルみたいな人間と自分は決定的に違うと思ってしまう人は多いと推察しますが、決して他人事ではないのだと思います。但し、正直な映画として面白かったか、また観てみたい映画だったか、革新的な映像があったか、と言うと正直なところ否ですので、諸手を挙げて大絶賛は出来ませんが。