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<ネタバレ>『怒号する巨弾』なんとも凄まじいタイトルですけど、これはっきり言ってストーリーとは何の関係もないんです。なんでもサイレント映画時代にこの題名の海外映画があり、当時は活動弁士として活躍していた新東宝社長の大倉貢の印象に残っていて、内容とは関係なく「これを使え!」となったそうです。まあ新東宝のタイトル詐欺にはもう慣れっこですけどね(笑)。 戦時中にスパイ容疑をかけられて獄死した父親の復讐のために、息子の天知茂が戦後15年たって冤罪をでっちあげて父の会社を乗っ獲った政財界の大物を抹殺してゆくというのが大まかなストーリーです。冒頭とラストには轟音を響かせて飛ぶ米軍戦闘機、そしてタイトルバックには街角で慈悲を乞う傷痍軍人(現代の人間に異様な風景に見えるでしょうけど、昭和生まれのわたくしには幼い頃こういう人たちを見た記憶がたしかにあります、歳がばれますね)を映すと、妙に太平洋戦争敗戦を観る者に意識させる撮り方です。主人公の警視庁警部・宇津井健も戦争で自分以外の家族が全滅したという設定で、この映画の独特の暗い雰囲気に貢献しています。天知茂は戦後に名前を変えて美術商になり三ツ矢歌子とは恋人関係になりますが、彼女の父親こそ天知親子を拷問した特高警察の幹部で現・警視総監、天知の最後の標的というわけです。 この映画の天知こそが“ザ・天知茂”という典型的なキャラで、その暗い影を引きづった立ち振る舞いには、惚れ惚れとさせられます。対する宇津井健は融通の利かない超真面目人間で、根本的に大根である彼の演技力には最適のキャラでした。脚本は末期の新東宝としてはマシな方です。天知が美術商のはずなのにいかつい手下どもに君臨するギャングのボスみたいなのは、どう見てもヘンテコですけどね。そしてラストで天知と宇津井がライフルVS拳銃の決闘を繰り広げるのは新東宝映画に不慣れな人には?でしょうが、これは新東宝アクション映画では有りがちな展開でしょうじき「ああ、またか」という感じでしたね。でも撮影は新東宝にしては凝っていて、下から煽るように映すショットの多用や深作実録ヤクザ映画のような街頭での無許可ロケやそこをビルの屋上からの鳥瞰視点で撮っているなど、当時としてはけっこう斬新です。もっと印象深いのは、新東宝唯一の巨匠・渡辺宙明の音楽で、時には即興ジャズ風のキレのある演奏もあり、そしてそのメロディが耳に残る“天知茂のテーマ”(これは私の勝手な命名です)は名曲です。この映画の劇伴は、新東宝映画群の中でもトップクラス、いや間違いなくトップでしょう。