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<ネタバレ>落語調の演出ばかりに目が行きがちですけど、数編の落語噺をくっつけながらそれを幕末動乱期の事件に見事にシンクロさせたストーリーテリングが絶妙で、歴代邦画の脚本ベストテンを作ったら間違いなくベスト3には選ばれると思います。舞台の品川宿を文字通り歴史の通り道として見せていて、遊郭の前の街道を通り過ぎるのは異人の軍楽隊や幕府の早馬、焼き討ちされた異人館に駆け付ける火消しなどまさしく尊王攘夷に激動する歴史そのものだと言えます。遊郭に上がり込んで攘夷をたくらむ高杉晋作たち長州藩士たちは妙に軽い乗りの若侍という印象で、これはきっと製作当時の学生運動に対するイメージを投影しているんじゃないかな。60年安保は三年先ですけど尊王攘夷は反米闘争のメタファーで、脚本陣に今村昌平が名を連ねているので十分あり得ることだと思います。高杉晋作と佐平治は同じ像の裏表、佐平治は高杉晋作のブライト・ハーフなんですよ。二人とも結核患者ですし、佐平治も晋作と同様に明治という新しい時代を見ることはなかったと思います。 そして凄まじいのはフランキー堺の伝説的な演技で、もう神がかりとしか言いようがない。特に私が好きなのは放り投げるようにして羽織に腕を通す仕草で、カッコよすぎです。驚異的な滑舌でまくしたてる演技をたっぷり見せた後で、一人になった瞬間にふと見せる迫りくる死に怯える表情、こんな演技は彼以外には誰もできません。ラストのシークエンスで佐平治と絡む東北なまりのおっさんが現れるとなぜか佐平治は滑舌も悪くなりおどおどしてしまうのが不思議ですが、これは佐平治にはおっさんが冥途の使者のように感じてしまったからなんでしょうね。そうなんです、佐平治は自分の余生があまり残さないれていないことを自覚していた川島雄三の分身でもあるんですよ。