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<ネタバレ>それまで爬虫類や鳥類をモチーフにしていた東宝特撮の怪獣でしたが本作ではついに昆虫・蛾をモンスター化に挑み、ここにゴジラ・ラドン・モスラの東宝三大怪獣が出揃うことになりました。■モスラの造形は歴代東宝怪獣の中でも群を抜く色鮮やかさが特徴で、日本怪獣映画史の中でも特異な存在と言えるでしょう。昆虫をモチーフにした怪獣は日本映画ではもちろん初めての登場、ハリウッドにも存在しないことはないけどこれほど巨大で現物を活かした設定のモンスターはありませんでした。そして初の善玉(?)怪獣であるというのもトピックスになるでしょう。もっとも本作でのモスラはまだ“人類の味方”などという陳腐な存在ではなく、小美人を救出するという刷り込まれた本能に従ってただ突き進む社会性昆虫的なキャラです。当然なことですがモスラのその行動により多数の犠牲者が出るわけですが、そこに間接的に触れるセリフとして「多くの人が不幸になります」という言い方をしている。「死人がでる」という事を決してセリフにしないところがいかにも東宝らしい。■幼虫から繭を経て成虫に変態してゆくというそれまでの特撮技術ではハードルが高い撮影に挑んだ円谷特撮陣のチャレンジ精神には、素直に敬意を表したいところです。青梅街道を南下し渋谷を経て東京タワーまでばく進してゆくモスラの幼虫は、二十分の一で組まれたセットの中を複数の人間が巨大なモスラの着ぐるみの中に入って演技するという新方式。成虫はもちろん操演ですから、さすがに中島春雄もスーツ・アクターとしての見せ場はなかったみたいです(笑)。『ゴジラ』以来となる本格的な東京破壊シークエンスとなりましたが、出来たばかりの東京タワーを惜しげもなくぶっ壊すとはさすが東宝特撮。『ゴジラ』のときとは異なった東京西部からの南下ルートを採用しているところなんかは芸が細かい。でも太平洋を北上していたモスラがなんでダム(小河内ダムがモデルみたいです)に出現するのかが意味不明、途中から海底を掘り進んできたのかな(笑)。■音楽面では伊福部昭じゃなくて古関裕而が起用されていて他の東宝特撮とは明らかに異なるサウンドが聴けます。そしてあの有名な『モスラの歌』、これは本多猪四郎たちの作詞を東大のインドネシア人留学生が現地方言で訳したという話が定説となっています、つまり♪モスラ―ヤ、モスラーは実はインドネシア語なんです!■あくまで個人的な感想ですけど、この映画は実は反米映画なんじゃないかと思います。ロリシカ=アメリカ合衆国・ニューカーク市=NYなのはミエミエですし、ネルソンはじめロリシカ人は邪悪で極悪非道、ロリシカ大使館も当初はネルソンたちの利権を保護しようと圧力をかけてくる。そして住民がいることを確認もせずにインファント島を巻き込む核実験をしたあげくに、後は知らぬ存ぜぬを押し通す。製作されたのは安保闘争の余韻が残る61年ですし、“不偏不党”がモットーの東宝までもが時代の雰囲気に迎合しちゃったのかな。成虫モスラがニューカーク=NYを壊滅させるシークエンスには、日本の当時の観客は内心では喝采を叫んでいたかもしれません。でも、ラストで小美人を連れて飛び去ってゆくモスラをフランキー堺たちと一緒に手を振って見送るニューカークの人々、都市を壊滅させられたのに笑って見逃すはずないでしょ‼太平洋戦争で散々な目に遭ったのに、まだ米国人の執念深さ・復讐心を理解していないみたいです。