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<ネタバレ>実話とは言え、重い、すごく重たい話しで、まるでエミール・ゾラの『ルーゴン・マッカール叢書』の中の一編を映画化したような感すらあります。19歳だったイザベル・アジャーニの初主演作であり、彼女の登場は全世界に衝撃を与えたと言っても過言ではないだろう。構想自体はトリュフォーがずっと温めていた企画で、TV出演していたアジャーニを観てすかさずアデル役に抜擢して一気に脚本を書きあげたとか。ほんとにこの人は女優を発掘する天才です。 トリュフォー作品にしては珍しい時代劇、いわば歴史劇的な作品であり、彼のロマン主義的な指向が伺えます。一人の人間がある人物を執拗に追っかけまわすというプロットは、例えは悪いかもしれないがリドリー・スコットの『デュエリスト/決闘者』に通じるものがあります。もちろん本作は男女の恋愛関係のお話しですけど、物語ではアデルが追い回すイケメン軍人とは彼女の一方的な片思いで、ビンソン中尉の眼からはアデルはとっくに恋愛対象じゃなくて、もはや恋愛関係とは言い難くなっている。そういう意味では『デュエリスト/決闘者』と同じように二人は修羅場という決闘を延々と続けていたという事も出来るでしょう。とにかくイザベル・アジャーニの鬼気迫る演技を見ているとまるでソフトな心理ホラーで、とてもじゃないけど『恋の物語』とは呼べません。アデルはやってることは滅茶苦茶でとても感情移入できる代物じゃなかったが、さすがにラスト近くになると可哀そうになってきます。これもイザベル・アジャーニの熱演の賜物でしょうね。 そう言えば前半で夜会にアデルが潜り込んでビンソンと人違いする将校、どう見てもトリュフォーのカメオ出演でしたね。これもヒッチコックへのオマージュなのかな。