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<ネタバレ>斉藤由貴のどこか陰性な暗い本質を見抜いたのが彼女のデビュー作『雪の断章ー情熱ー』を撮った相米慎二なら、そのコメディエンヌとしての資質をいち早く見出したのは大森一樹だろう。最初から過去の時代を描いた次作『トットチャンネル』が現在でもさほど色褪せて見えないのに対し、古都金沢を舞台にしつつ80年代当時最先端ファッションの斉藤由貴を描いた『恋する女たち』がひどく褪せてしまったのは残念だ。流行は廻ると言うが、この映画が逆にかっこよく見えるなんて時代はこの先も来ないだろう。なにしろダサいのだ。安っぽいのだ。気恥ずかしいのだ。ツルゲーネフやサリンジャーの引用、文学的な言葉遣いを随所にちりばめる少女たちの感性、コミカルな描写の古さ、高井麻巳子、菅原薫二人の驚くべき大根ぶり、暴走族の決闘の軽薄さなどなど欠点をあげればきりがない。しかし、である。それでも斉藤由貴が輝いているのである。この映画で描かれるのは、彼女演じる主人公多佳子の初恋だ。勝気な少女がそれでもどうしようもなく直面する恋というと、どこか樋口一葉の『たけくらべ』の美登利のそれを彷彿させもするが、理屈っぽくシニカルな分、多佳子の初恋はより厄介だ。強気に纏っていたはずの全能感を打ちのめす初恋という制御不能なその感情に、彼女が時にとまどい、時に居直り、七転八倒の末やがて素直にそれを受け入れていくさまが、コミカルにそれでいてとても真摯に共感をもって綴られていく。自分の恋に気づいたこの少女が、一生の不覚とばかりに落胆する描写がなんとも面白い。惚れることと負けることを同義とする、大人からすれば滑稽で幼いそんな潔癖さは、けれどたしかに初恋の一つの真実ではなかったか。美しい初恋映画は数あれど、こんな視点から恋を描いた映画は他に類がない。恋に関する印象深い名台詞の数々も含め、氷室冴子の原作に拠る部分は大きいだろう。それでも「なぜ世界でたった一人、よりによって彼でなくてはダメなのか、そんなこともわからないで愛だの恋だの私には言えないんです」と切に涙し、いつしかひたむきに恋する自分と向き合っていく多佳子の姿には胸を打たれずにはいられない。ラストの油絵が象徴するように、かたくなな鎧を脱ぎ捨て裸となるそんな少女に斉藤由貴が見事に同化している。ダサくて安っぽくて気恥ずかしい、けれどそれ以上に恋することの大切さを教えてくれるすばらしい青春映画である。[良:2票]