<ネタバレ>キアロスタミ監督が好んでいた「演者が素人」というのがとても良 .. >(続きを読む)
<ネタバレ>キアロスタミ監督が好んでいた「演者が素人」というのがとても良い目となって出た作品ですね。人生に詰んだ(と自分では思っている)おじさんの一日を描いているのですが、役者オーラの無い人たちばかりで展開される訥々とした話はスペクタクルでなくどんでん返しもなく、ほんとに市井のザ・日常であります。
死ぬのを見届けてくれと言われたら我々は、さあどういう言葉を彼にかけるか。若い兵士は逃げ出すし、神学生はその道のセミプロならではの説得をする。けどやはり人生の大先輩の三人目のじいちゃんが良いですよね。頼みを引き受けたうえで、人生で得てきた気持ちを素朴な言葉に変換して伝えます。「もう月を見なくて良いのかい?桜桃の味を忘れてしまうのかい?」「明日の朝会えても会えなくても友達だ」ただの紙袋を下げた(中にはウズラ)じいちゃんの、同胞としての言葉には静かだけれど耳を貸してしまう力がありました。
そして監督ったら「という、お話。」と突然こっち側に引き戻すのですね。驚いた。あのおじさんがフィクションの中で結局どうしたか、各自が想像する余白がごっそり残りました。私はね、翌朝せっせと穴を埋め戻している彼を確信しています。「死ぬ気」メーターが元々半分くらいだったのが、作中どんどん減ってましたもん。あそこで横たわるには雨だって冷たいしね。