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<ネタバレ>宮部みゆき氏の原作を先に読んでいます。 高層マンションの一室で殺されていた家族は、実は住んでいたはずの家族ではなくて、しかも他人同士であった・・。 一言で言うなら、現代社会における人間関係の希薄さ、がテーマと思います。そして、こういった事件が起こりえる法律の脆弱性 (抜け穴) という、社会派の一面も持っている。原作はまさに現代ミステリーの最高峰で、必見の名作でした。 しかし映画版は、そのどちらのテーマも取り上げつつ、大林監督らしさが色濃く出た内容となっています。まず登場人物の多さから、ドキュメンタリータッチになったことは理解できます。それよりも、とりわけ印象的なのが、ノスタルジー漂う荒川区の一昔前の風景。どこか尾道を彷彿させるというか、、 とても愛情をこめて撮られていますね。対象的に事件の起きたマンションの冷たいこと。人間の生活感が感じられなくて、無機質な建造物といった感じ。風景にそぐわない億ション、遠目から見た二つの高層タワーの姿は、明らかにこの地域に歓迎されたものではなく、懐かしい風景や下町の人情味を破壊した悪しき土地開発の象徴とされています。 もちろん事件は人間がやったことですが、犯人の動機や心の闇にはさほど言及することなく、むしろ事件の「理由」として、そういった人間を生み出した時代性や環境の変化も背景にあることを見逃すことはできません。 オープニングの軽さや、視聴者に考えさせるべき問題提起を画面上に文字でナレーションしたり (ラストとか) 、やや演出面に難を感じましたが、名作「理由」の映像化としてはこれしかなかったように思えます。