1.阿部和重、伊坂幸太郎と帯に並ぶ名前が異様に豪華ですが、実際これほど衝撃的な読書体験は小説の世界でもなかなかない。
殺人鬼“モン”の理屈もなにもない狂気じみた台詞が奇妙な魅力と説得力を持って、読むものの倫理観を揺らがせる。殺人鬼をヒーロー扱いする世相の描写もリアルで、現代における倫理の頼りなさを巧みに伝えている。一方で、対するマリアやユリカンの唱えるきれいごとが不思議なほど感動的に響く。類型的な人物やありがちな台詞といったものは皆無に等しく、登場人物は皆尋常ではない人間臭さと存在感をもって話しかけてくる。
賛否両論分かれたラストについてはどちらかというと否定派につきたいが、それを補って余りある内容だと思う。暴力の恐怖と魅力、倫理のもろさと力強さ、命と善悪をめぐる相反する側面が力強く活写されている。終盤には作者の自己陶酔や意味のわからないぶっ飛びすぎた展開が増えてやや残念なところもあるけれど、とくに前半は文句なく素晴らしかった。
名作だと思います。……たぶん。