2.《ネタバレ》 ニューヨークの摩天楼直下、薄氷一枚隔ててある不条理というどす黒い沼。あれは多くの現代日本人の心象風景ではないでしょうか?。少しも奇をてらったものではないでしょう。あれを幼稚とも言える絵で見せられた時、あまりに素直に納得してしまい、この作品にただならぬ切迫感が漂う理由が判ったような気がしました。私は、本作がヒットして、評論家などにも持ち上げられるのは、シュールとも言える勢いだけの超おおげさなバカ表現がウケているからというより、読者の心に静かな不安が鋭く突き刺さってくるからだと思います。私のような素人からすれば、将棋という頭脳ゲームの実力だけで全てが決まるプロ将棋の世界は徹底的にピュアで残酷に見えます。その手前で脱落してもなお将棋から離れられない主人公のもがき、あがく姿は痛々しいとさえ思います。本作の奥底には、あそこまで突き抜けてバカな表現でないと精神が保てないくらいの不安が潜んでいるのではないでしょうか?。尋常ではない勢いで突っ走ってるので、物語が破綻しないか?という不安も感じられ、作品自体危うい感じがします。好感がもてるのは、将棋の面白さを必死に伝えようとする作者の熱意です。これほど「アイラブ将棋」なマンガが他にあるんでしょうか?。作者はなんと飛車落ちの渡辺竜王(棋界最高位)に勝つくらいの腕前です。その点でもこれは普通の将棋マンガではありません(監修の鈴木八段は現役一流棋士です)。まさに本格的なのです。そうした奥深さが滲み出て、将棋知らない人も将棋の中身になにやら迫力を感じるんじゃないでしょうか?(私はネットの倶楽部24で2~3段の中途半端で未熟な腕でして・・・それでも、盤面がリアルな本格的対局であることくらいは判ります。最近全然指してないし定跡勉強してないんですけど)。これ読むと将棋指したくなります。そこが一番素晴らしい。