1.レビューというか思い出話。
バブルもすっかり終わった頃、中野のまんだらけに、当時ホームステイしていたイギリス人の学生を連れて行った事がある。彼は幕末の浮世絵師、月岡芳年に衝撃を受け、浮世絵研究をしたくて日本語学に手を染めたという(なので神保町にも連れて行った)。
浮世絵の製作システムは、現代ではマンガに受け継がれている。絵師と刷り師と版元の関係は、漫画家と印刷工と出版社のそれに置き換わり…とか書くと長いんで省くけど、要は現代にも浮世絵文化は継承されている事を知ってもらいたかった。
所持金二千円。これで日本のマンガ文化を知らしめるために、何をチョイスするべきか?
結局セレクトしたのは、『百億の昼と千億の夜』、そして本作『童夢』だ。ヒトによって選択は異なるだろうが、オイラにとっては今でもこれがベストの回答だったと思っている。
写真、映画と違い、マンガは全てを作者のペンによって創造する。本作が書かれた時代はまだコンピュータも使用できず(少し後で大野安之がMacでの作画を、寺沢武一がン千万円かけたCG専用システムでの作画を始める)、画家のペン先が世界を産む全てだった。
本作は間違いなく旧時代のマンガ製作システム(印刷・出版を含む)における写実の頂点だと信じている。
件のイギリス人からは、その後インターネットが普及した頃にメールをもらった。大学を卒業した後は国連職員になったらしい。数年前に検索してみたら北朝鮮の兵力分析のレポートを出版していた。今やすっかり極東アナリストだ。
いろいろな意味で、時代は変わったんだと実感した。