1.実は一話完結ものの人間ドラマって相当に難しいジャンルだと思うんですが、『柳沢教授』シリーズはかなりの高水準を保っています。しかも主役は個性的ではあるものの一介の大学教授に過ぎず、話としても地に足ついたリアルなもの。この設定で読ませるのは著者の卓越した洞察力があってこそでしょう。天才から凡人、善人や悪人、子どもから子猫まで、山下和美の筆勢には一定した愛情が感じられる。主人公の柳沢教授同様に、山下さんにとっては人間という生きものが面白くて、愛しくて仕方がないのではないかと推察します。あ、あと「学ぶことの素晴らしさ」というテーマを忌憚なく伝えられるのもこの作品の奇特なところです。お父さんが大学教授、というバックグラウンドに支えられてのことでしょうか。いずれにせよ山下和美独自の人間観に乗っ取っているからこそ、こんなに魅力的な人間ドラマを量産できるのだろうと思います。