2.《ネタバレ》 なんといっても、坂井大蔵が息子に気づかずにその横の鉄男を抱擁する、表彰式のくだりが印象的だった。正直それまではなんとなく読んでいたところもあったんだけど、それ以降はぐいぐい引き込まれていった。
思うに、境田も阿久津も、酒やギャンブルに嵌まっている父親なんかよりある意味ずっと恐ろしい。漫画にかける気持ちが家族の情にも勝り、周囲の人間をないがしろにしてなお、迷いがない。
創作に熱中している本人も必ずしも幸せというわけではない。ただ苦痛と喜びがない混ざった幸福よりも密度の濃い時間があって、一度それを知るともう抜け出すことができない。漫画に限らず、創作に身をやつすことの面白さと怖さを上手く捉えていると思う。