8.《ネタバレ》 二人の女性の間で心が揺れるのはよくあることだが、一方が血のつながらない妹というのが本作の骨子で、読者は主人公の心がどっちへ転ぶのかはらはらさせられるのが本作の醍醐味だ。
鹿島みゆきへの想いは公然のものであり、若松みゆきへの想いは秘められた、抑圧されたものである。それが最終話では、主人公の真人が妹みゆきと唐突に結婚するという形で、テーマが見事にぶち壊しになって終了する。血がつながっていなくても兄妹の結婚はタブーのはずだが、この一線をためらいも見せずヒョイとたやすく超えてしまうところには、深さがまるで感じられない。
ファンの間では評価が高い最終話は、肝心の真人とみゆきの台詞が一切なく、感動的なはずの結婚式の描写もわずか1コマのみで、新郎新婦が非常に小さく描かれている。さすがの作者も、「血のつながらない兄妹の結婚」という反社会的タブーを、何コマも費やして描写することに恐れをなし、何とか世論の反発を買うことなく物語を終了させたという苦心の跡が伺える。
「妹みゆきとの結婚」は誰もが予想できた結末のうちの有力な一つであり、あまりにも月並みで、これだけは避けてほしかったと思うのは私だけだろうか。私なら、「みゆき」のラストをこうしたい。
帰国子女のみゆきがカナダの大学に留学することになり、兄と再び離れ離れになるのだ。
「4年経ったら帰って来るね、お兄ちゃん!」とか言いながら、笑顔で出国審査に向かう妹みゆき。それを手を振って見送る真人と鹿島みゆき。
国際空港では、出国審査のゲートにラインが引いてあって、そこから先は法的には外国であり、資格のない人は越えられない。真人と若松みゆきは本来他人だが、法的には身内である。ラインの向こう側の若松みゆきと、ラインの手前で見送る二人。それは、法的に一緒になれる二人と、超えてはならない一線の向こう側にいる人を象徴的に表現するのである。
曖昧なものは曖昧なまま、抑圧されたものは抑圧されたまま、骨子となる設定を保持したままで終わりたい。二人の禁断の関係は解消したとも、あるいは4年後に再開するとも読める。妹との別離が、真人と鹿島みゆきが結ばれることを暗示するような形でもよく、タブーを絵的に明示することだけは、本作の骨子となるテーマをぶち壊しにするだけに、して欲しくはなかった。