★1.《ネタバレ》 いまのところ、SFファンタジー系を除けば最も好きなマンガって事になるだろうな。 世間的な評価について。この作品がどれだけ社会に影響を与えたかは、連載の途中で本当にできてしまった「あおぞら銀行」と、まさにリアル野崎修平登場と言ってよかった西武グループの不正会計スッパ抜き(あの監査役、絶対本作に影響されてるよなあ…)をみればわかること。本宮ひろ志が「女の子のパンティを描かなくてもサラリーマン漫画が売れる時代になったんだなあ」と泣いたエピソードも有名だ。 個人的な評価は何と言ってもまず「破滅的なまでの善良さ」、これだ。澄んだ目をして曲がった事のできない(でも押しは弱い)野崎の純真ぶりは、読んでいてうざったくなるほど。こんな奴、現実に監査役できるわけがない(いや現実に登場したわけだが…)、絶対首を斬られる、システム抜きの人力で銀行業務できるわけないだろ、総会屋を無視して株主総会だなんてそんな無茶な…etc etc. その無茶苦茶さがラストのあおぞら銀行崩壊までつっ走って行く。これがもう、まるで大悪党を見ているかのような爽快さで、正義と悪の価値観が頭の中でぐるんぐるんと逆転し始める。『バスタード!』の陰画と言っても差し支えない。 社内で敵に回る奴らは、みんな人間らしい暗部を持った男たちばかり。リアルで、非常に微妙な存在で、90年代には本当にこんな銀行マンたちが日本を動かしてたんだろナ、と想像してしまう。そういう猛者が野崎監査役の非常識力の前にどんどん敗退して行く。何しろ相手はバカである。神の加護を受けた無敵のバカ。 だが最強の敵はなかなか尻尾を出して来ない。中盤以降でないとあおぞら銀行のバックで何が起こっているのか想像もできず、ただの監査役はやがて日本の歴史の暗部にまで目を向けざるを得なくなる…と、このあたりのスケールアップの仕方が、実に大人向けでしっかり描かれているのが良いのだ。
10点に届かないのは、ほとんど終り近くで連載が集英社に移り、現実離れしたスピード伏線回収に向かったため。物語としてはキッチリ終らせたものの、新シリーズ『頭取野崎修平』に移行する段取りがミエミエで、「あんな作品を書くために急いで終らせなくてもよかったのに…」と悔やむ事しきり。 それでも「善」が「悪」になる大人の黒い世界で善を通し続ける破壊的な痛快さは、この程度の欠点で消えてしまうものではないですよ。 【エスねこ】さん 9点 [全巻 読破](2007-10-11 22:06:16) |