1.《ネタバレ》 人、死にすぎ。まだあどけない小学生の死体が累々と積み重なっていくさまに、開いた口が塞がらない。殺人鬼と化す大人たち、砂漠から現れる異形の怪物、狂ったコンピュータに支配される遊園地、鉄砲水から黒死病まで、ありとあらゆる災難が子ども達に襲いかかる。まあ人がたくさん死ぬ話ならそう珍しくはないのだけれど、年端も行かない子どもばかりがこんなにも大勢、容赦なく殺される作品は後にも先にもない。かつてはホラーの分野でも幼い子どもの死を描くのはタブーとされた時代があったはずだし、そうでなくとも無意識のうちにブレーキをかけるのが普通の感覚だと思うんだけど、そこが天才楳図かずおのすごいところであり、怖いところでもある。そういう意味では連載当時は残酷描写が騒がれたそうだけど、連載されているのがたとえ現代だったとしても衝撃的なのには変わりなかっただろうと思う。
たとえば鉄砲水が校舎を襲うエピソードで、戸を押さえていた女の子の手首が激しい水流のためにあっさり千切れてしまう場面がある。これを普通に描けてしまうのは、語弊があるのを承知ではっきりいえば、頭がおかしい。登場人物に対して容赦のない作家は大勢いるけれど、楳図かずおの場合、それがあまりにも普通だ。上手い言い方が見つからないが、これが平凡な作家ならどこかしら「ほうらすごいだろ、こんなに残酷だぞ」という気負った感じがするものだが、対する楳図氏は至極冷静に、平然とやってのけてしまう感じがする。
野暮な突込みをさせてもらうと、現実の小学生がこうした状況に置かれたとしてもけっしてこのマンガのようには行動しないだろうとは思う。またクライマックスでIQ230の天才少年が「学校がタイムスリップしたのは、ダイナマイトのために光の速さで校舎が揺さぶられたからだ!」と説明したのには腰の骨がこんにゃくになった。しかし楳図氏の天才思考回路に異を唱えても無益というもの。おそらくは作者当時のアイディアのありったけを注ぎ込んだに違いない、常軌を逸した世界。読んでよかったと思う。こういうぶっ飛んだ漫画も、一度体験しておいて損はない(害はありそうだけど…)。