1. BOX~箱の中に何かいる~
《ネタバレ》 カルト映画の名作「CUBE」を、和風伝奇風に再構築したかのような作品。 民話に出てくる迷い家(マヨイガ)の現代版ような巨大な立方体に閉じ込められ、予め用意された種々のパズルを解かないと次に進めない。 パズルは「CUBE」のような高等数学ではなく、寄木細工、迷路、クロスワード、ルービックキューブ、エッシャーの騙し絵などとてもアナログチックで良い。 中盤ややゴチャゴチャして中だるみ感はありますが、最後はきっちり綺麗にまとまっているのがお見事。 最後は成す術もなく「箱の主」の思い通りの結末になってしまうわけですが、ジョーカー的役割のキャラクターを入れ、最後にそれを斃す事で達成感を味わえる…こういったテクニックも上手いなと思います。 今風の人物像を取り入れようとしたのか、登場人物に悉く共感が持てないのがやや残念。でも考えてみれば「CUBE」もそんな感じだったかな。 9点(2021-10-16 01:42:43) |
2. 日の丸街宣女子
おそらく日本の未来を考えるに当たって避けて通れないであろう「在日問題」を真正面から扱った力作。 第1巻は新大久保デモ、第2巻は海外の従軍慰安婦像、第3巻は児童公園不法占拠とヘイトスピーチ規制法。それぞれのテーマで1巻読み切り。 どういう意志決定が働いているのかメディアでは全く報道されない数々の重要事件が、フィクション交えとても判り易く表現されています。 妙な法律が施行され(どう考えても憲法違反)中々難しいご時勢かと思われますが、作者氏には是非とも続刊を頑張って描いてほしいものです。 個人的に少し残念なのは主人公のお父さん。最初はごく普通の人だったのに、途中から活動家に置き換えられてしまった。こういう人は確かに居そうですが「親戚の個性的な叔父さん」くらいに留めた方がよかったかも。 自分を含む多くの人の父親世代というのは、朝鮮人批判に眉をひそめるものの深層ではそうでもなく、時にこっちがビックリするような事を意識せずに言ってみたり。長年情報を独占してきたマスコミ偏向報道の賜物か「本音と建前」ではなく、自分自身でも全く意識しないまま二重の基準が存在するといった、この世代独特のメンタリティを感じることが多いです。 そういう点で、本作では最初の設定のように「主人公の言動に(本気に、だけど表層的に)眉をひそめるお父さん。でも極限的な状況では本質の良心的な部分が出てくる」方が、より多くの人が共感できるような感じになったのでは…と思います。 9点(2021-10-16 01:22:19) |
3. 足摺り水族館
新世代のつげ義春、水木しげるという感じの背景の緻密な描き込みが凄い。でもその中で動き回るのは極めてシンプルに描かれた可愛らしい女の子。つげ義春のようなドロドロの人間描写は無い。その代り、この世代ならではの日常的なノスタルジックなもの、シュールなもの、夢再現性的なものをひたすら追求している感じ。 『完全商店街』という一篇では、お母さんにお使いを頼まれた女の子が、メモに書かれた意味不明の文字をロシア語と判断してロシアに向かう。でも海を渡るわけではなく、商店街をひたすら北上し「樺太」と書かれたビルを左に曲がり、歩き続けた挙句にロシア人だらけの商店街に行き着いてしまう。でも結局メモはロシア語でない事が判明して更に彷徨が続く・・というお話。全編こういった感じのシュールな博物図鑑的短編集。装丁も凝りまくっててとても良い。 残念なのは人間に対する関心がやや薄いのか、キャラのバリエーションが限られている事。(対極にあるのは『伝染るんです』辺りか。) でもそれを補って余りある溢れんばかりの夢的イメージの豊かさ、再現性の的確さや、その展開力が素晴らしい。これは思いがけない拾い物でした。 9点(2021-10-16 00:26:31) |
4. 北斗の拳 イチゴ味
《ネタバレ》 「北斗の拳を世界一ソックリに描ける作者」による北斗の拳パロディ漫画。なぜか主役は聖帝サウザー。 著名作品のパロディ漫画なんて内輪で楽しむだけのものでロクなものが無い・・というイメージ持ってましたが、これは面白い。 原哲夫そっくりの絵柄とあまりにもバカバカしいネタが程良いマッチングです。 ギャグの傍ら、北斗4兄弟vs南斗聖拳連合軍の戦争や、南斗内乱(6聖拳+5車星が2手に分かれて戦う)など、ファンが妄想する夢の戦いを実現してくれる点でも良。 ちなみに原作者公認済み。第1巻巻末の読者お便りコーナーに原氏のインタビューが掲載されてますが、「もっとポロ~ンを期待します」と仰っておられるにも係わらず、Hな描写はほとんどありません。 しかしこれがアニメ化されるとは・・まさに世も末(世紀末)ですね。 8点(2015-08-26 13:04:42) |
5. 鬼滅の刃
《ネタバレ》 鬼退治と聞いて「彼岸島」や「進撃の巨人」のような話と思っていたら、様々な能力を持つ異能者達が決闘する話。「ジョジョ」や「甲賀忍法帖(バジリスク)」の質感に近い。 敵も味方も様々な登場人物達が凄くキャラ立ちしてて読み応えありました。さすがジャンプ。 どの戦いも敵を倒すまでのハードルが恐ろしく高い。苦労してやっと斃したと思ったら本体は別に居たというような。でも主人公側もそれに劣らず諦めない。仲間と協力し時にその屍を踏み越えながら相手をきっちり倒すさまは、昔ながらの「友情・努力・勝利」のジャンプのテーマが結実したものと言えましょう。 「ジョジョ」だと時に一体何のために戦っているのか解らなくなる時あるけど、本作は「鬼退治」という設定がブレないのがいい。またジャンプによくある人気テコ入れのために今の敵グループを噛ませ犬にさせて新たな敵が登場しないのもいい。決闘ものとして安定した読み心地。特に終盤、畳の迷宮でのトップ3との決戦が良。出てくるだけでホッとする伊之助(猪頭)も良い。 ただ全ての決着がついた後の後日談があまりにも蛇足なので、やや減点。 映画がとてつもない興行収益を上げそうだというニュースが流れてますが、個人的には違和感有り。基本は少年漫画=殺し合いの戦いを面白く読ませる・・なので一定年齢以上の層は受付けないと思うし、「千と千尋」のように海外批評家が選ぶ名画100選なんかで本作が選ばれるのは想像し難い。「北斗の拳」や「ドラゴンボール」の昔からある「人気漫画の劇場版」として面白く魅力的に作ってあるとは思うけど、他によっぽど見たいと思わせる映画が無いんか・・と邦画界の現状が逆に心配になってしまいます。 7点(2020-12-26 16:54:58) |
6. 怒りのロードショー
映画好きの高校生がダベっている様子をそのままギャグ漫画にした、あるようで無かったアイデアもの。「パーレーツ・オブ・カリビアン」の主演俳優は他に誰が相応しいかという議論で、最終的にスティーブン・セガール「沈黙の海賊」に落ち着いたとか、そんな感じ。 ヘタウマな絵柄ですがデッサン力はしっかりしており個人的には好き。 語られているものがアクションやホラーなどの流行ものと、古典文芸映画の両極のみというのが少し残念。二次元ネタが多すぎる気もする。 リドリー・スコットやアラン・パーカー、古典ではホドロフスキーやヘルツォークが好きな自分が共感できるキャラはいないかな・・。 7点(2018-10-14 03:31:40) |
7. 人形の国
「ブラム」や「バイオメガ」「アバラ」のような斬新な世界観は無く、氏の作品としては普通に既視感のあるSF。その代り話があっちこっちにワープする事なく安心して物語が楽しめる感じ。 キャラデザインは少しヒーローもの風に傾きすぎて個人的には今一つ。 超構造体が主要なモチーフとして登場、本作品もブラム世界にどこかで結びつくのかな。 7点(2018-10-14 03:15:42) |
8. 百万畳ラビリンス
《ネタバレ》 延々と続く巨大建築物の畳の迷路をゲーマーの女の子2人がさ迷い歩くという話。 やっと外に出られた・・と思ったら、森林地帯にも延々と畳が敷かれている。 日常生活版「BLAME!」あるいは、ゲームオタク版「夢の木坂分岐点(筒井康隆)」もしくは、ゆるやか和風版「CUBE(映画)」といった感じ。こういう話は好きです。 まったりと夢幻世界を彷徨し、謎が謎を呼ぶ上巻の雰囲気が特に秀逸。 下巻ではこの世界の解明に話が費やされますが、結局明かされた真相はリアル社会よりもさらに窮屈で矮小な世界観になってしまった感じ。宇宙のシーシェパードに保護される世界なんて・・ この手の話は変に背景や真相を説明し出すとつまらなくなってしまう傾向がありますが、個人的にはそのパターンに漏れずに残念。ゲーム的には真相は全て解明された方が良いのかもしれませんが・・。 この辺は個人の好みだろうか。変に宇宙人など持ち出さずに、リアル社会を侵食し始めた架空世界・・あたりの世界観で曖昧に留めておいた方が良かったように思います。 7点(2015-08-26 11:42:39) |