1.《ネタバレ》 特殊な蝶の毒で人間が巨大化してしまった話である。ただの人がそのまま巨大化するのは「戦慄!プルトニウム人間」(1957米)と「巨人獣 プルトニウム人間の逆襲(1958米)からの流れと思われる。場所は長野県の蓼科高原から八ヶ岳に入って行った山中とされているが、何で日本に変な蝶がいるかの説明は特になかった。
モルフォという蝶は、見た目が美麗なわりに動物の死骸などにたかるという話もあって不気味とはいえる。話としては似ていないが、後年の特撮TV番組「怪奇大作戦」第2話「人喰い蛾」と並んで、鱗翅目の昆虫は気色悪いと思わせる話になっている。毒を持つものもあるそうだが、食った場合に毒になるという意味であって人間は食わないので関係ない。
今回は映像面がなかなか好印象で、女性が山中で男を発見した場面では、単に野生化しただけでなく巨大化していたことを引きで見せたのがよかった。またその後に山間の農村に来て、わざわざ石垣を崩しながら歩いたり、半鐘台と並んで見せたりする場面は印象深い。巨人がなぎ倒した木も、ちゃんと高木に見えるものを植えてあるのは感心させられた。
物語に関して、最後のナレーションを素直に受け取れば、人は愛をどこまで貫けるのかというのが重要テーマのようではある。しかし相手の男が、一度騒ぎを起こして顔が売れてしまったからには今後いつまでも世間で怪物扱いされそうで、以前のような関係に戻れるのか怪しい気もする。本人の言った「もうこれ以上私を苦しめないで」(山へ帰れ)という状態に再度陥ることもあるのではないか。
この時代なら、報道機関が写真を撮りさえしなければ映像記録も残らなかったわけだが、カメラマンが友人の切なる思いにつけ込んで特ダネ写真を撮り、それで友人を苦しめる側に回ってしまったというなら皮肉な話ともいえる。制作側がそういうことを考えていたのか不明だが、本人も罪悪感がなくはなかったと取れる場面はあった。
登場人物としてはゲスト出演の中真千子さんが、普通に可愛かったり戦慄の表情だったり厳しい顔できりっとして見えたりで、特撮映像と並んで今回の見どころになっている。また巨人役の野村浩三氏は、主役を務めた「大怪獣バラン」(1958)よりこっちの方で顔が売れているかも知れない。