1.《ネタバレ》 着ぐるみ怪獣は出ない。もともとシリーズの企画段階で想定されていた怪奇サスペンスドラマのイメージと思われる。
この回の脚本家はweb上の人物紹介で、脚本家の肩書だけでなく「性教育研究家」とか「フェミニズム活動家・性教育実践家」と書かれていたので、どういう物語になっていたのかと思って見た。しかしそういう方面というよりも、今でいえば子どもの権利に関わる話と取れる。
今回の基本アイデアについては博士が説明していたが、要はいわゆる幽体離脱に科学っぽい理屈を付けただけのようでもある。しかし線路の場面を見ると単純な幽体離脱というよりも、普段見えている "無邪気な天使" と別人格の "無邪気な悪魔" が離脱していたのであって、いわば二重人格の片方だけの幽体離脱に見える。最後はその悪魔が退治されたのではなく元に戻って、身体の中に天使と悪魔が同居する本来の状態になったと思われる。
そうすると、最後のナレーションで「リリーは悪魔っ子ではなかったのです」と言っていたのは妥当な見解とも思われない。ナレーションの別バージョン(初回放送版)では台本段階と同様に、子どもが罪を犯すのは本人の責任ではなく環境のせいだと説明していて、これが本来のメッセージだったはずである。要は悪い生育環境が子どもの中の悪魔を発現させるということだ。
台本によれば魔術師は実の父親ではないそうで、さらに「ママ」も不明とすれば、魔術団が孤児に衣食住を与えて働かせていた状態と思われる。魔術師は誠心誠意少女を世話していたようだが、やはり子どもを育てるにふさわしい環境ではなかったらしい。最後は少女も笑顔でハッピーエンド風には見えたが、基本は何も変わっていなかったということではないか。
なお台本を読むと、映像化の際の変更や省略により不都合が生じたところがあるのがわかる。例えば博士が「カタプレシー」と言ったのは「カタレプシー」(強硬症)の単純間違いだろうが、これは直前の公演内容を台本通りに映像化しなければ意味が通じない。
また中国人のチン(珍)とは少女の髪を褒めた人物のことだが、省略された台詞によればその後の練習中に事故で死亡したとのことで、その結果として翡翠の装身具が少女のものになったとされていた。なおこの珍が簡単には死なないと言った場面や、カメラマンの新妻が未亡人になるという笑えない冗談は、その後の展開を予告する不吉な台詞になっていた。