1.《ネタバレ》 このエピソードでは大義と大義の対立が見られる。登場人物でいえば長官が戦前の大義、医療班の隊員が戦後の大義を代表していたが、長官が戦後の大義に負けていきなり変節したように見えたのは、現実の日本で敗戦を境に同じ人物の言動が一変したという話の表現だと思われる。戦前の大義にそのまま従っていれば隊員は全滅ということになっただろうが、戦後の大義に従った結果として今度は防衛基地が完全放棄され、復旧の望みさえも絶たれそうになったのであって、どちらにせよ地球防衛という本来の使命を果たすことにはつながらなかったわけである。
一方で、この危難から本当に防衛基地を救ったのは、退避命令にも従わずに復旧作業をやりとおしたフルハシだった。ご立派な大義など関係なしに自分の使命を果たすため、いま必要なことを迷わずやり遂げることが重要であって、そこに生命を賭けるのは、地球防衛軍の隊員としては悔いのないことのはずである。今回来訪の宇宙人が去り際に「地球人の忍耐」「人間の持つ使命感」に負けたと捨て台詞を残したのは、この流れからすれば専らフルハシのことを言っていたと思われる。
戦後日本では、太平洋戦争で日本はアメリカの合理主義に負けた、という話を誰でも聞いたことがあったと思うが、実際は日本人の体質自体は変わっておらず、戦後の大義を信奉して現実度外視の観念論を述べ立てる人々がいる一方、合目的的な思考様式はまだまだ身についていなかったということではないか。これは21世紀の現在もなお効力を失わない辛辣な社会批判になっているが、まあ社会批判というより当時の子どもらに対し、こういう大人になるなよと諭したということと思われる。実際それで効果があったかというと怪しいわけだが、とにかく昭和43年の段階でこういう内容をさりげなく込めていたスタッフには感服する。
またこの回では、上記メッセージと並行する形でウルトラセブンの弱点を扱ったエピソードが盛り込まれて充実度の高い話になっている。人間よりも寒さに弱いというのはさすがに言い過ぎだろうが、映像面でいかにも寒そうな印象は出しており、雪に埋もれたダンのところにアンヌの声が届いたのは少し感動的だった。
ほか宇宙人の造形とか話し口調が変だとかいうことにはいちいち突っ込まない。毎度のことだが科学面・技術面で変なところは気づかなかったことにしておく。