1.《ネタバレ》 なぜか吸血鬼の話である。最初に洋館で棺の中から吸血鬼が出て来るが、本来は現代(昭和43年)の科学犯罪を扱った番組のはずなのに科学的な説明がつくわけでもなく、最後まで単なる吸血鬼の話で終わってしまう。これは劇中人物にとっても意外な展開だったのではないか。現代の吸血鬼は売血業者だ、といった戦後の風潮を反映した感じの発言もあり、何らかの社会批評を絡めた話かと思えばそうでもない。また単なる吸血鬼の話としても問題があり、最初にポーランドが出て来たのは渋いところを狙ったかと思ったが、最後のナレーションなど聞くと、もともと小説の登場人物だったドラキュラを単純に吸血鬼と同一視してしまっており、いくら昔の番組とはいえこれはさすがに考えが足りない。
さらにストーリーの面でもいい出来には思われない。題名の「地獄」はタイアップ先の「別府地獄めぐり」を意識したのだろうが、物語に即してみれば、劇中の若い男女が陥った境遇を表現していたと取れなくもない。しかし特に若い男の人物像が共感を妨げるものがあり、また時々出る錠剤の意味が不明瞭なこともあって万人に訴える悲劇にはなっていない。そのほか一度死んで葬式もしたはずなのに何もなかったことになっているなど不審な点もあり、また特に最初と最後のナレーションが、物語で表現できていないことを言葉で説明して適当に始末をつけたように聞こえる。どうも何かの事情でやっつけ仕事になってしまったエピソードのように思われた。
なおレギュラー紅一点のさおりちゃんが出ないのも不満足な印象を残すことにつながっている。
しかしそれでも当時これを見た子どもとしては十分怖いエピソードだったと記憶している。この回は別府市の観海寺温泉にあった観光ホテルと全日空のタイアップで製作したものだが、こんな番組と提携しては誘客には逆効果であり(子どもだったら絶対行きたくない)、これは見通しが甘かったのではないかと言いたい。ホテルだけでなく別府全体が“吸血鬼の徘徊する街”になってしまっているのはまずくないか。
ちなみにそのホテルはすでに廃業したとのことで、いまこれを見て行きたいと思っても残念ながら無理である。現地は空き地になっており、その向かいの敷地に同名の介護付有料老人ホームが新しくできているようだが関係はよくわからない。